全員

住宅ローンとがん保障

 

住宅ローンを借りる時に加入する生命保険を団体信用生命保険(以下、団信)といいます。債務者が亡くなった際に保険金によってローンが完済される制度で、貸す側、借りる側双方のリスク回避を目的としています。近年は、死亡時以外にローン返済の負担が残るリスクにも対応するため、三大疾病等により債務が消滅する団信が数多く販売されています。今回は三大疾病のうち「がん保障」に対応する団信について検証してみます。

がんになったら住宅ローン残高がゼロ円に
一般的な団信は、死亡・高度障害の場合に住宅ローン債務が消滅する死亡保障で、保障内容は概ね同じでした。しかし、がん、心筋梗塞、脳卒中など、いわゆる三大疾病により就労不能になった場合に備える、「がん保障付き団信」や、「三大疾病保障付きの団信」の保障内容は、引き受ける保険会社により異なります。現在では8大疾病や9大疾病を対象とするなど保障内容が拡大しており、給付タイプを大別すると「診断給付金型」と「月額返済補償後債務繰上返済型」の2種類になります。

診断給付金型
その名の通り診断が確定すると保険金が給付され債務が消滅します。がんによる治療中にローン返済から解放されるだけでなく、復職後もローン返済が無いので、短時間勤務や転職により収入が減った場合にも安心です。ただし、上皮内がんや悪性黒色腫以外の皮膚がんは対象外のところもあり、同じ三大疾病保障でも違いがあります。たとえば、みずほ銀行の3大疾病保障特約付団信は対象とならないがんはありませんが、りそな銀行は上皮内がんや悪性黒色腫以外の皮膚がんは対象外です。三菱東京UFJ銀行のビッグ&セブン<Plus>三大疾病保障充実タイプも上皮内がんは対象外ですが、悪性黒色腫以外の皮膚がんでは住宅ローン債務が消滅します。

月額返済補償後債務繰上返済型
がんと診断され所定の状態になり30日が経過すると、毎月の返済額相当が保険金として支払われる団信です。所定の状態が続いていれば、保険金は最長12ヶ月間支払われるため、その間の返済負担から解放されます。さらに、その後も所定の状態が続いていると、その時点の債務残高相当が保険金として支払われ、全額繰り上げ返済することで債務が消滅します。所定の状態から13ヶ月以内に元の状態に戻れば債務は消滅せず、ローンの支払いを免れることはできないタイプです。

加入時の注意点
がんなどの三大疾病保障等の付いた団信は、加入時の年齢制限が通常の団信より少し厳しく、みずほ銀行の3大疾病保障特約付団信は46歳未満、中央ろうきんのオールマイティ保障型団信は51歳未満が対象です。また、保険期間も80歳までの金融機関もあれば、75歳や76歳までの金融機関もあります。加入時には告知書のほかに健康診断結果証明書等の提出が必要なこともあり、ローンを借りる時の年齢や健康状態で選択できる金融機関が限られてくる場合もあります。

住宅ローン債務はがん保険では保障できない
がんと診断された際に住宅ローンが完済できる保障は、民間の保険や共済では実現できない場合が多いでしょう。たとえば、がんと診断された時点で3,000万円のローン残高を完済するのであれば、診断一時金として3,000万円の給付を受け取る必要があります。しかし、一般的ながん保障の診断一時金は100~300万円のように、がん治療を目的とした金額で設定されているため、住宅ローンを完済できる金額には遠く及びません。つまり、がんになった際に住宅ローン債務を消滅させたいと思うのであれば、がん保障の付いた団信を選択するしかないのです。

住宅ローンは最後まで返済できることが一番大切な要素ですから、がんへの備えを優先するあまり、本来の希望とは違う住宅ローンを借りてしまうのは本末転倒です。ただし、人生における死亡以外のリスクと向き合うためにも、がん保障をはじめとした三大疾病等に対応した団信付きの住宅ローンも一考の余地があります。ご自身のニーズにあったローンと団信を選びましょう。


市川 貴博(いちかわ たかひろ)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 主任研究員
日本FP協会静岡支部 幹事

 
公開日: 2017年06月29日 10:00