全員

今秋からスタート!スカラシップ・アドバイザー派遣事業

2016年12月、文部科学省は、「高等教育進学サポートプラン」を公表しました。
これは、経済的な理由で、高校生が大学進学を断念することのないよう、「一億総活躍社会実現のための奨学金事業の大幅拡充」をキャッチフレーズとした、政策パッケージプランです。その名の通り、「給付型」奨学金(以下、給付型)の創設や無利子奨学金の拡充、「所得連動返還方式」の導入、低所得者層向けの減額返還制度の拡充などが盛り込まれています。

とくに「給付型」については、奨学金利用者の増加にともなって、返済の延滞が社会問題化。早急の整備が求められていただけに、期待している生徒や保護者の方も多いのではないでしょうか?
ただし今年度は、先行実施として、特に経済的に厳しい者(私立自宅外生や児童養護施設・退所者等)を対象としており、かなり限定的といえます。また、基準についても、従来の「貸与型」が日本学生支援機構(JASSO、以下「機構」)で定められたものを各学校等に提示しているのに対し、「給付型」は、機構から提示されたガイドラインに基づいて、各学校で推薦基準を策定することになるなど、やや勝手が異なっています。

また、同じく今年度から導入された「所得連動返還方式」も、FP的には悩ましい制度です。
毎月の返還額は、卒業後の前年の所得に応じた額となりますので、収入が低いときに返済額も抑えられるのは有り難いしくみです。しかし、その分、返還期間も延長しますし、所得が高くなったときの返済負担の大きさも気になります。
たとえば、機構のシミュレーションによると、貸与額300万円で、返還開始の年収300万円、上昇率2.0%だと仮定すると、初年度の返還月額は7,352円(定額返還方式の半額)ですが、5年後9,675円、10年後11,100円と徐々にアップ。最終年度には、15,675円になります。また、返還期間も定額返還方式に比べて4年以上も長くなってしまいます。この返還方式は、第一種奨学金についてのみ選択できますが、目先の返済額にばかり気を取られて、安易に利用するのも考えモノでしょう。

さらに、来年度は第一種奨学金の貸与月額が新設されるなど、年々、奨学金制度は複雑化しています。また、奨学金の滞納者も2015年時点で392万人と、10年前の約2倍に増えており、利用に不安を感じる生徒も少なくないといいます。
そこで、今回策定されたサポートプランの1つの柱として掲げられたのが、安心して奨学金を利用するための情報提供と相談体制の充実―「スカラシップ・アドバイザー派遣事業」―です。

運営は機構が行っており、すでに7月から9月にかけて、全国10地区13会場において一定の資格を有するFPを対象に養成プログラムが実施されています。アドバイザーと認定されれば、高校やPTA・教育委員会などの要望に応じて、延べ2,600人のFPがアドバイザーとして全国規模で派遣される予定です。おもなプログラムの内容は、共通レジュメを使って、奨学金の種類や返済方法のほか、進学のための資金計画などを説明するというもの(60~90分程度)。希望する生徒には、資金計画の作成への助言なども個別に行われますが(90分程度)、この場合も、あくまで進学の後押しとなるアドバイスにとどめ、家計相談などは対象外となります。

基本的に、貸与型奨学金の場合、保護者が借り入れて返済を行う「教育ローン」とは異なり、返済するのは学生自身です。ですから、本人がそれを自覚し、将来のライフプランを考えた上で申し込む必要があることは、説明するまでもありません。問題は、それをどこまで、生徒が理解できているかです。筆者は、高校・大学でライフプランの授業を行う機会があり、それについて話をしたりしますが、全体的な印象としては、頭では何となくわかっているけれど、現実味のある話として実感できていない、といった感じでしょうか。教育資金が足りず、お金を借りたい側にとっては、条件等が緩和され、借りやすくなるのはウエルカムでしょう。でも卒業後、返済する段になって、「あんなに借りなければ良かった」と後悔しても遅いのです。

アドバイザーとして起用されるFPは、単に奨学金の説明をするだけではありません。
奨学金を利用する意味や生徒に、自らのファイナンシャルプランを意識させる役割をも担っているのです。その一方で、少子化が進み、「全入時代」と言われて久しいですが、大学進学費用も高止まりしている昨今、奨学金や教育ローンを組み、高額な費用をかけてまで大学に進学する意味を問う必要を感じているのは筆者だけではないはずです。もちろん、それを選択するのは、教育を受ける本人であり保護者となります。ただ、教育とお金についてアドバイスする立場のFPは、ますます将来を見据えた、できる限りの情報を提供する必要がありそうです。


黒田 尚子(くろだ なおこ)
CFP®認定者
1級ファイナンシャルプランニング技能士消費生活専門相談員資格
消費生活専門相談員資格
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター

 

公開日: 2017年08月24日 10:00