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「名義保険」とみなされないために

平成27年1月1日以降に発生した相続から、遺産にかかる基礎控除額が「3,000万円+600万円×法定相続人の数」となったことはご存知かと思います。簡単にいえば増税です。相続税を支払わなければならなくなった方が多くなりました。先般地元のファイナンシャルプランナーの勉強会で税理士の方が言っていましたが、「名義保険」というものに対し、税務調査がメスを入れ始めたとのことでした。「名義預金」は聞いたことがあるが「名義保険」って何と思われる方もいるでしょう。

まず保険の契約(死亡保険)には、3名(契約者=被保険者の場合は2名)のお名前が必要です。契約者(保険の契約を結び、保険料を負担する人)、被保険者(保険をかけられる人)、保険金受取人(被保険者の死亡により保険金を受け取る人)です。保険証券には必ずこの3名(2名)のお名前が記載されます。また今は保険金受取人に「法定相続人」と記載できる保険会社が少なくなりました。必ず誰かを指定します。基本的には法定相続人となる方から決めます。この組み合わせによって、課税される税金が異なります。
以下の契約形態で父が亡くなった場合の税は?(契約者=保険料負担者)
①契約者=父、被保険者=父、保険金受取人=長男・・・相続税
②契約者=長男、被保険者=父、保険金受取人=長男・・・所得税(一時所得)
③契約者=母、被保険者=父、保険金受取人=長男・・・贈与税
④契約者=父(死後は長男)、被保険者=母、保険金受取人=父(死後は長男)・・・相続税


①、②、③は何れも父の死亡によって保険金の支払いが発生するため相続に関して何らかの申告をしなくてはいけないと気が付くでしょうが、④は保険金の支払いが発生しないため相続財産と気づかないケースが多いようです。この場合は長男が父の保険の権利を相続したことになり、その相続財産としての評価額は父の死亡時の解約金額となります。このことを知らない人が意外と多く申告漏れとなりやすいようです。

それでは、「名義保険」の場合どうなってしまうのか?契約者=保険料負担者が別人の場合、これを「名義保険」と言います。
同じく以下の契約形態で父が亡くなった場合をみてみましょう。
⑤契約者=長男(保険料=父)、被保険者=長男、保険金受取人=長男の子
  父の死亡により保険金の受け取りはありません。契約形態だけをみると、父の相続とは無関係のように見えますが、保険料を負担してきたのは父なので相続税の対象となります。
⑥契約者=長男(保険料=父)、被保険者=父、保険金受取人=長男
  父の死亡により保険金の受け取りが発生します。契約形態だけをみると所得税(一時所)となりますが、保険料負担者が父なので、相続税の対象となります。
⑤、⑥の場合、そのまま何もせず税務調査で指摘されると修正申告や追徴課税等が発生します。「名義保険」だと指摘されかねません。

このような契約をされるのは、殆どが相続対策で保険を活用した場合で、私もよくご相談を受ける案件ではあります。親の思いとしては、保険という手段を使って自分の財産を生前に子供に移動させて、円満な相続と子供の相続税負担を軽減したいという点につきます。正当な手段で行って税務署に認めてもらってこそ、初めてその思いが叶います。この手段を使うにあたり大事なことは、保険料を贈与していることですが、お互いがその事を承諾する必要があります。したがって贈与契約書を必ず作成し証拠を残すことが重要です。そして現金で保険料を渡すのではなく、銀行を使って保険料のやり取りの記録を残すこと。税務調査が入った場合、必ず銀行でのお金の動きをチェックされます。又贈与される側は自分の名義の通帳や印鑑は必ず自分が持ち管理をすることが大事です。親の手元に通帳等があるとアウトです。保険を活用しての相続対策では、基本的には他の贈与と同じですが、保険契約における「契約者と保険料負担者が誰なのか」がとても重要となりますので万一の際、「名義保険」だと言われないようご注意ください。


田中 美子(たなか よしこ )
AFP ファイナンシャル・プランナー
2級ファイナンシャル・
プランニング技能士
TLC(トータルライフコンサルタント)副称号:生命保険協会認定FP
損害保険上級資格
DCプランナー2級
キャリアコンサルタント
公開日: 2017年09月07日 10:00