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株は上昇すれど給与は増えず

 日経平均株価は2017年10月23日で15日の続伸と過去最長を更新しました。株価は経済(景気)を写す鏡と言われていることから、当面、景気は回復基調が続くと考えられます。株価の上昇は経済を明るくし、また株高による資産効果も期待できることから、プラス面が多いのは事実でしょう。このコラムを読まれている方々も、株や投資信託を保有している人、確定拠出年金(企業型やiDeCo)で投資信託を選択している人は、株高ににんまりしているのではないでしょうか。

そんな明るい状況に水を差すわけではありませんが、私たちの家計を司る「収入」が増えていない現実から目を背けるわけには行かないでしょう。9月29日に国税庁が公表した「民間企業の給与実態調査統計」によれば、2016年(平成28年)の平均給与額は422万円でした。前年が420万円でしたので、増加率はわずか0.3%に過ぎません。より正確な数字にすれば、2015年の平均給与額は420万4000円、2016年は同421万6000円でした。増加額はたった1万2000円(増加率は0.285%)、月額に直せば1000円に過ぎないのです。増えただけましと言えるかもしれませんが、4年連続春闘では定期昇給のほかにベアが実施されたことを考慮すれば、あまりにもお寒い限りと言わざるを得ません。もちろん、平均額ですからもっと増えた人がいる反面、前年と比較して減少した人もいることでしょう。

この統計には、男女別の平均給与額も公表されているため記載しておきましょう。2016年の男性の平均給与額は511万1000円、女性は同279万7000円です。前年(2015年)と比較すると、男性はわずか6000円の増加に過ぎず、増加率は0.1%でした。女性は3万7000円の増加で、増加率は1.3%となっています。女性の増加率が男性よりも高いのは、2年連続でした。
とはいえ気になるのは、世界を震撼させた2008年のリーマンショックから9年経過しましたが、私たち勤労者の給与は未だリーマンショックのキズが癒えていないということです。リーマンショックがあった2008年の平均給与額は430万円。給与が大幅に減額されたのは翌2009年で、平均給与額は406万円でした。その時よりは16万円も増えているとも言えますが、冒頭に述べた株価は、リーマンショックどころか1996年当時の水準まで上昇しているのです。ちなみに1996年当時の平均給与額は461万円でしたから、未だ39万円も低い水準に甘んじているのです。しかも、平均給与額の統計を試算した際の平均年齢は46歳、平均勤続年数は12年なのです。平均年齢、平均勤続年数ともに、過去最高レベルであるにもかかわらず、平均給与額の伸び率は緩やかであるということが考えられるわけです。つまり、株高の効果は株式や投資信託などを保有している世帯に限られ、保有していない世帯には直接的な効果は見られないということになります。間接的という意味では、公的年金等が株高を受けて大幅に増加している点などをあげられますが、その実感は皆無と言わざるをえないでしょう。給与の増加が遅々として進まないことを考慮すれば、株式や投資信託などを持つものと持たざるものの格差は拡がっていく気がしてなりません。お金(資産)にも働いてもらうことを真剣に考える必要性が高まっていると思われてなりません。


深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表
公開日: 2017年11月09日 10:00