全員 平成29年度から全国で開始される予定の「がん教育…
2017.02
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みなさんは、「がん教育」という言葉を聞いたことがありますか?そして、それが、今年度から全国の学校ではじまることをご存じでしょうか?

■死亡原因の第一位なのに、がんのことを知らない日本人・・・
一般的に、「がん教育」は、市民講座など成人向けのイメージがあるかもしれませんが、ここでの対象は、小中高等学校などの子どもたちです。 そもそもは、日本が世界一のがん大国であるにも関わらず、多くの人が、がんに対する正しい知識や認識を持っていないことが発端となっています。
内閣府が行った「がん対策に関する世論調査」(平成26年11月調査)において、がんに関する知識について質問したところ、もっとも高かったのは、「がんの治療方法には、大きく手術療法、化学療法、放射線療法がある」ことを知っていると挙げた人の割合で、約67%でした。
その一方でもっとも低かったのは、「がん全体の5年相対生存率は50%を超えている」についてで、知っている人が約24%にとどまりました(ちなみに、最新の全部位別5年相対生存率は62.1%です(平成28年7月発表。出所:「国立がん研究センター」)。

■正しいがん情報を持つことの意味と重要性
今や「がんは治る病気」と言われますが、まだまだ「がん=死」というイメージが根強く残っていることを感じます。実は、がんと診断されてから1年以内の自殺率は、通常の20倍だと言われており、以前、臨床医から、「すでに余命わずかな進行したがん患者が、悲観して自ら命を絶ってしてしまうケースも珍しくない」と聞いたことがあります。
また、治療と仕事を両立できないと思い込み、告知後すぐに退職してしまい、治療費や生活費に困窮するケースも後を絶ちません。少し冷静になって考えてみれば、罹患後の生活が多少なりとも想像できそうなものですが、がんという病気の存在に圧倒されて、とにかく生活やお金より命が大事ということで頭がいっぱいになってしまうのでしょう。
いずれも、正しい情報や認識を持つことが、どれほど重要かを思い知らされます。

■学校における「がん教育」とは?
こうして、がんの死亡率を減少させ、がん予防を実施するには、まず、がんについて正しい知識を得てもらうことが重要だと考えた国は、平成24年6月に閣議決定された「第2期がん対策基本計画」において「がんの教育・普及啓発」をはじめて盛り込みました。
それでは、「がん教育」とはどのようなものなのでしょうか?
文部科学省が、平成27年3月にまとめた「学校におけるがん教育の在り方についての報告」では、次のように定義されています。

「がん教育は、健康教育の一環として、がんについての正しい理解と、がん患者や家族などのがんと向き合う人々に対する共感的な理解を深めることを通じて、自他の健康と命の大切さについて学び、共に生きる社会づくりに寄与する資質や能力の育成を図る教育である」

つまり、がん教育は、子どもたちが、がんに対する正しい理解を持つこと。そして健康の命の大切さについて主体的に考えられるようになることが目的です。
この基本計画を受けて、今後5年以内にがん教育をどのように行うか検討するとして、平成26年度から、文部科学省による「がんの教育総合支援事業」が開始。有識者による「がん教育の在り方に関する検討会」が設置されました。すでに、全国21か所の道府県・指定都市などではモデル事業が行われており、平成28年4月には、「がん教育推進のための教材」や医療従事者やがん経験者などの外部講師を招いた場合に最低限留意しておくべき「外部講師を用いたがん教育ガイドライン」が作成。各地のモデル校で活用されています。
同年8月には、「平成28年度がんの教育総合支援事業成果報告会」が開催され、各地の取り組みなどが発表されました。今後は、事業の実践の成果などが検討され、平成29年度から全国展開される予定です。

■「がん教育」における国の狙いとは?
私のがん友の中には、外部講師としてモデル校で講演を行ったがんサバイバーもいますが、国ががん教育を行う狙いは、前述したものとは別のところにも垣間見えると口を揃えます。それは、がん教育が、平成27年12月に施行された「がん対策加速化プラン」の3つの重点項目のひとつに入っている点からも伺えます。
がん対策加速化プランとは、「加速化する」ことによって、死亡率減少につながる分野に絞り短期集中的に実行すべき具体策を明示したもので、「がんの予防」「がんの治療・研究」「がんとの共生」が3つの柱です。
がん教育は、「がんの予防」のひとつですが、要するに、学校教育の現場で、子どもにがんがどのような病気か、がん検診や予防がいかに大切かを伝えることで、家庭に戻ったときに親に「がんは早期発見が大事だから、がん検診に行ってね」と言わせたいのです。実際、がん教育を受けた生徒は保護者などの大人にがん検診の受診を勧めているという調査結果も出ています。

■がんサバイバーとして「がん教育」に期待すること
なんだか「将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」という印象も否めない、国の施策ですが、がんサバイバーとしては、がん教育の重要性は痛感します。
あまり知られていませんが、がんに罹患した親が、子どもにどう伝えれば良いか悩むケースは少なくありません。とくに、子どもが未就学児や思春期だった場合、対応によっては、「自分のせいでお父さん、お母さんががんになったのではないか」「自分にがんが移るのではないか」と思い悩むお子さんもいます。
私が乳がん告知を受けた当時、娘は5歳でした。当然、「がん」という病気のことは理解できませんでしたが「お母さんは、病気になったけど、きちんと治療すればまた元気になるから、家族みんなで力を合わせてがんばろうね」と、説明できる範囲で状況をきちんと伝えたつもりでした。

その1年後、がんに罹患した親を持つ子どものためのあるプログラムに参加し、娘が「がんが自分にうつるのではないか」とずっと不安に感じていたことを臨床心理士に告げられました。そのときのショックは、今でも忘れられません。
親ががん患者でなくとも、周囲に小児がんのお子さんがいるケースもあるでしょう。もし、きちんと学校で、がんという病気について正しい知識や情報を学ぶことができれば、悩みや不安を抱えたり、偏見や誤った情報でいじめられたりといった問題も解消できるのではないかと期待しています。

とはいえ、がん教育にあたって「誰に、誰が、何を、どのように教えるか」、医療機関やサバイバーなどの外部講師とどのように連携を取っていくかなどの問題も残ります。いわば「がん教育元年」となる今年。どのような取り組みが展開されるか注目していきたいと思います。
黒田 尚子(くろだ なおこ)

CFP®認定者
1級ファイナンシャルプランニング技能士消費生活専門相談員資格
消費生活専門相談員資格
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
公開日: 2017年02月02日 10:00