全員

ライフイベントの優先順位をお間違いなく

2017年1月から個人型の確定拠出年金の加入対象者が広がるのはご存じの通り。勤務先に企業年金制度がある勤労者、公務員、専業主婦など、これまで個人型の確定拠出年金に加入することができない人も対象になることから、ほぼ全勤労者が節税というメリットを享受できることになるわけです。金融機関側も口座獲得のために、管理手数料の引き下げ、運用商品を拡充するなど、口座を獲得するためにさまざまな攻勢をかけてくることでしょう。折しも、先の国会で野党が「年金カット法案」と揶揄した年金制度の改革法案が可決されたことから、老若男女が老後の準備にひた走りそうな雰囲気です。

早いうちから老後の準備を行うことは決して悪いことではありません。否、称賛される可能性が高いといっても過言ではないでしょう。しかし、老後の準備まっしぐらでも構いませんが、1つ苦言を呈したいのはライフプラン上の優先順位を間違ってはいませんか?ということです。優先順位は時間軸と言い換えてもよいでしょう。自分の現在の年齢を基準にして、簡単なライフイベント表を描いて見てください。あまり参考にならないかもしれませんが、筆者は現在54歳。老後を公的年金が受給できる65歳からとすれば、リタイアまで10年強。かなり老後が近い年齢ですが、ライフイベント表を描くと現在から後3年、場合によっては4~5年の間子ども教育費が最もかかる時期です。筆者にとっては老後のカウントダウンが始まりつつあると言えますが、ライフイベントを見据えると子どもの教育費をいかに賄うかが鍵になるのです。

筆者の例のように、ライフイベント上の優先順位とは、時間軸を見据えて、近い将来のライフイベントから優先して資金の準備を行いましょうということなのです。将来を見据えると、老後の準備はだれにとっても最も遠いライフイベントのはず。その最も遠いライフイベントを、節税が得られるからといって、最優先課題として資金を回しても大丈夫ですか?と問いたいのです。

通常は、近い将来のライフイベントを優先して、そのライフイベントの資金のメドが概ねたったところで次のイベントの準備を本格化していくのが基本です。言い換えれば、近い将来のさまざまなライフイベントをクリアした後、やっと老後がくることになるのです。余裕があるなら早いうちから老後の準備を行っても構いませんが、個人型の確定拠出年金は60歳まで引き出しはできません。言葉は悪いですが、お金はあるけど使えないということなのです。そんなことはわかっていると怒られてしまいそうですが、家計相談を行っているとライフイベントの優先順位を考慮しないケースが多々あるのです。

典型的なのは、子どもの教育費の準備がままならないのに個人年金保険に加入しているケースです。幸いなのは、個人年金保険はいつでも解約ができるということ。もちろん、早期で解約すれば元本割れとなってしまいますが、お金はあるけど使えないということにはならないのです。ところが、確定拠出年金は(何度も述べますが)60歳まで引き出すことはできないため、流動性不足でお金を使うことができないケースがありえるのです。個人型の確定拠出年金加入時には、くれぐれもライフプラン上の優先順位を考えることをお忘れなく。
深野 康彦(ふかの やすひこ)

AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表
公開日: 2017年01月12日 10:00