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いい商品ほど広告には載らない?

新聞や雑誌などに載る金融商品の広告を見ていてつくづく思うのは、私たち利用者にとっていい商品ほど広告には載らないということです。逆に言えば、取り扱う金融機関などにとっていい商品しか広告には載っていないのが通常なのです。

このことは金融商品に限った話ではありません。当然と言えば当然です。企業はその商品を販売することによって大きな利益が得られるからこそ、高い広告宣伝費を支払うわけです。利益が上がらない商品だったら広告には載せません。例えば、現在、日本経済新聞に広告を載せる場合の費用は、一面広告だと白黒で税込約2,200万円、カラーだと税込約2,700万円です。それだけのお金を支払ってもそれ以上の利益が得られると見込めるからこそ広告を出しているのでしょう。

したがって、ひねくれた見方をすれば、新聞広告に載るのは、その取扱業者にとって大きな利益が見込める商品なのです。もしかしたら、私たち利用者が得られるメリットよりも業者のメリットの方が大きいかもしれない。もっと簡単に言えば、広告に載っている商品ほど、業者の粗利益の大きい商品、金融商品で言えば手数料の高い商品かもしれないわけです。

実際に金融商品の広告を見ていると、そういう傾向が明らかであることがわかります。例えば、投資信託で言うと、一面広告のような大きな広告に載っているファンドほど、販売手数料や運用管理費用(信託報酬)が高めに設定されているファンドであるのが通常です。一般に、販売手数料や運用管理費用(信託報酬)が割安なパッシブ運用のファンド(指数連動型のファンド)であるインデックスファンドやETF(上場投資信託)が広告に載ることはめったにありません。

もちろん、手数料の高い金融商品のすべてが悪い商品だというわけではありません。手数料が割高でも、その分だけ大きな収益が得られるのであれば問題ないでしょう。しかし、手数料の高い商品ほど大きな利益が得られる商品だとは必ずしも言えないのが実態なので、利用者にとって収益(利回り)をマイナス方向に引っ張る要因となる手数料負担を比較するのは重要です。同じような運用が行われるのであれば、手数料負担の軽い商品を選ぶべきであるのが商品選択の基本です。

債券なども同様です。証券会社や銀行などを通じて国債などの債券を購入する際、販売手数料などはかからないのが通常です。しかしそれは、表面的にはかからないというだけで、価格の中に手数料分が含まれていたり、債券の発行体から金融機関に高い手数料が支払われていたりするので、まったく手数料がかからないわけではありません。手数料の額は公表されていないケースも多いですが、広告に載っている債券ほど、割高な可能性があります。

例えば、日本の国債でいえば、額面5万円単位で販売されている通常の国債は、広告に載ることはまずありません。大手の金融機関が販売している通常の国債は、仕入れ値に金融機関の利益分を上乗せした価格で販売していますが、比較的大きな金額で国債を買おうとする地域金融機関や大企業などが、少しでも安く買いたい、つまり、わずかでも利回りの高い国債を買いたいと思う関係上、金融機関同士の競争が激しく、価格を高くできないのです。

一方、個人を対象に1万円単位で販売されている個人向け国債は広告に載ることがあります。金融機関によっては、個人向け国債の購入者にはキャッシュバックがあるところもあります。なぜかというと、個人向け国債は金融機関が得られる手数料(募集発行事務取扱手数料)が高いからです。2017年3月募集分から少し引き下げられましたが、それでも、変動10年で販売額の0.4%、固定5年で0.3%、固定3年で0.2%の手数料がそれぞれ国から金融機関に支払われています。個人向け国債の変動10年を買うと0.4%のキャッシュバックがもらえるというのは、この国からの手数料を利用者に支払っているだけなので、金融機関にとっては痛くもかゆくもないのです。

外国債券などでも、新聞広告に載るのは、ブラジルレアル建て、トルコリラ建て、オーストラリアドル建てなど、おそらく金融機関にとって収益が高いと思われるものばかりです。アメリカの国債やドイツの国債、フランスの国債などの流通量の多い、信用度の高い先進国の国債が広告に載ることはまずありません。大手の証券会社は、必ずと言っていいほど、それらの先進国の国債を在庫としてかなり保有していますし、一般に販売もしています。証券会社のWEBサイトにも商品ラインナップとして載っているのですが、営業マンが勧めてくることはまずありません。なぜなら、手数料が安いからです。営業マンの営業成績にはほとんどカウントされないからです。

あらためて言えることは、私たち利用者は、そのような基本的な仕組みを理解し、金融商品だけでなく、さまざまな商品の購入を検討する際は、冷静に比較検討することが重要だということです。少しでも賢い消費者になれるよう、学んでいきましょう。


菱田 雅生(ひしだ まさお)
CFPファイナンシャル・プランナー
1級FP技能士
1級DCプランナー、
住宅ローンアドバイザー
確定拠出年金教育協会 研究員
アクティブ・ブレイン・セミナー マスター講師
 

公開日: 2018年11月15日 10:00