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投資信託のリターンと投資家が得るリターンには差がある
投資信託(投信)にはいくつかのリターンがあります。
1つ目は投信そのものの成績を評価するときに使う「トータル・リターン」です。例えば1年、3年、10年というように過去のある一定期間を通してその投信が何パーセントで運用できたかを示したものです(*1)。「この投信は成績がよい・悪い」というときに使われるのはこのトータル・リターンです。
2つ目は「インベスター・リターン」です。これは投信を保有する投資家のリターンのことで、その投信を購入した人たちが実際にどれだけの利益を上げたのか(あるいは損をしたのか)を保有者全体の平均値として推計したものです。
ある投信を購入して、追加で購入したり解約したりせずに一定期間保有し続けた場合にはインベスター・リターンとトータル・リターンは同じになります。ただ、実際にはあとから購入したり、一部解約したりすることもあるので、両者のリターンには差(ギャップ)が生じます。なかでも問題なのは、投信自体はいい成績なのに、保有する投資家がそのリターンを享受できていない(トータル・リターン>インベスター・リターン)場合です。
下の2つは日本株に投資する投信のトータル・リターンとインベスター・リターンを示したものです(2年・年率)。
●A投信
トータル・リターン:16.04% インベスター・リターン:2.59% 差:▲13.45%
●B投信
トータル・リターン:8.74% インベスター・リターン:8.0% 差:▲0.74%
A投信のリターンは16.04%と高いのですが、投資家の平均的なリターンは2.59%にすぎません。13.45%のマイナスのギャップがあります。一方、B投信のリターンは8.74%ですが、投資家のリターンは8.00%なのでギャップはわずかです。
なぜこのような差(ギャップ)が生まれるのでしょうか。次のような傾向があります。
(1)投信の純資産総額に対して資金の出入りの規模が大きいほど、(2)投信のリターン変動(ボラティリティ)が大きいほど、ギャップは大きくなりがち。
(3)ギャップがプラスになるかマイナスになるかは「資金の流出入のタイミング」が主な要因。
前述のA投信の場合はメディアで大きく取り上げられて一気に資金が流入したことが背景にあります。
一般に販売されている投信の場合、投資家の行動や販売姿勢に影響を受けるため、ギャップは大きくなりがちです。例えば、投信の基準価額が上がったところでたくさんの投資家が購入し、その後に価格が下落したところで多くの人が解約してしまえば、投信のリターンに比べてインベスター・リターンは低くなります。これに対して、企業型確定拠出年金やiDeCo(個人型確定拠出年金)など、投信を継続的に積み立てていけるしくみを利用すると、ギャップは小さくなる傾向があります(*2)。iDeCoやつみたてNISAは非課税のメリットがよくいわれますが、ギャップを埋める効果もあるかもしれませんね。
きちんとした投信を選ぶというのが大前提ですが、「ギャップを埋めて」運用によって生み出される投信のリターンを享受してくことは資産形成を行う上でとても大切です。そのためには、判断を誤りがちな売買タイミングに頼るより、長期にわたって積み立てを継続していくことがかしこい方法といえそうです。
*1:投信を計測するリターンには「算術平均リターン」と「幾何平均リターン」の2つがあるが、一般に複利計算して年率平均で表示する場合には時間加重収益率である幾何平均リターンを使う
*2:『投資信託事情』2018年10月号「フィデューシャリー・デューティの経済学(6)-投資信託のもう一つのKPI:インベスター・リターン」に詳細なデータあり
竹川 美奈子(たけかわ みなこ)
ファイナンシャル・ジャーナリスト
LIFE MAP,LLC代表