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「自分はがんにならない」と主張する方へのがん保障のおススメ法

先日、あるセミナーで、がん分野において非常に著名なN医師とご一緒させていただきました。そこでN医師が突然、ご自分にがんが見つかったことを告白されたのです。しかも、ご自身が検査して、発見されたといいます。
あまりのことに、N医師の隣に座る筆者も含め、会場の人々はどのようにリアクションして良いか分かりません。N医師は、「実は、分かったのは今日です。私自身、まだ事実を受け止めきれていないのです」と言いながら、「『2人に1人ががんになります』と言い続けてきましたが、もちろん、タバコも吸わないし、毎日運動もしているし。自分はどこかがんにならないと思い込んでいました。でも、本当になっちゃうんだなあ。」とつぶやいておられたのが印象的でした。

筆者自身も、乳がん告知を受けた時には、「まさか自分が」と思いましたが、長年、がんについて研究されている医師ですら、どこか自分はがんにならないとお考えなのです(N医師曰く、「きっと、人間にはそのように考える機能が備わっているに違いない」そうです…)。
多くのがん患者さんと接していると、がん検診をきちんと受け、生活習慣に気を遣い、健康には自信がある!という方でもがんが見つかることがあります。どんなにがん予防に努めていても、がんになる時はなってしまう。ある意味、「運」の要素もあると言えるかもしれません。

しかし、経済的備えは別物です。
たまに「自分はがんにならないから、がん保険はいらない!」と強固に言い張る方がいらっしゃいますが、冒頭のN医師の告白を聞くまでもなく、‘がんにならない’というのはまったく根拠のないこと。必要に応じて、治療費負担や収入減のリスクに対して預貯金や民間保障(保険・共済)で準備しておくべきですが、往々にして、このような方は保障(保険・共済)がキライです。
ご自分は納得して保障(保険・共済)に入らないことを選択したとしても、それを支える(あるいはいずれ遺される立場の)ご家族は、経済的に困窮してしまいます。
実際、筆者のところには、「夫ががんに罹患しました。もし、亡くなった場合、生活費や子どもの教育費などが本当に心配なのですが、夫は『自分が死んだ後のことなど知らん』と言って真剣に考えてくれようとしないのです。もちろん、がん保険や死亡保険などにも加入してはいませんでした」といった、がん家族からの深刻なご相談が寄せられています。

そこで、「自分はがんにならない」と主張する方にがん保障(保険・共済)を考えていただきたい場合、あるデータを活用する方法をオススメしています。
東京海上日動あんしん生命が行った「‘がん’に関する意識調査」(2015年5月)によると、治療法の選択に関する質問に対して「年齢や家計に関係なく、治療費が高くても、一番良い治療を選びたい」と回答したのは、罹患者が「自分」だった場合は25%にとどまっているのに対し、「配偶者」だった場合は43%と1.7倍以上にアップします。
つまり、がん罹患者が誰かによって、治療への意識が変わるということです。
同調査では、罹患者が「自分」だった場合、治療費を負担できる範囲で無理なく治療を受けたいとお考えの方が半数近くで、がん治療を受けたくないという方も17%もいます。

「自分はがんにならない」「罹患しても、治療は受けないからがん保障はいらない」と言う方には、「わかりました。そうお考えになるのはご本人の自由です。では、奥さまががんに罹患された場合はどうでしょう?」→「そんなものお金に糸目をつけずに治療を受けさせるに決まっているだろう!」→「そうですよね。ご主人ががんに罹患された場合、奥さまもそうお考えになるのではないでしょうか?預貯金が潤沢にあれば、それでまかなうことも可能ですが、そうでなければ借金して医療費を捻出するケースも考えられます。民間保障(保険・共済)は、ご自身のお考えはもちろんですが、家族の想いも汲み取って、最低限の備えだけでも確保しておかれた方が良いのでは?」→「・・・・(絶句)」といったやりとりが予想されます。

正直言って、筆者自身も罹患するまで、保障設計の際に、家族の想いなど考えたことはありませんでした。しかし、実際に自分の生死に関わるような病気になった時、遺されることになるかもしれない家族の、絶望感や哀しみがリアルに感じられるようになったのです。
病気になった後の生活は人それぞれ異なるものですが、健康体の方には想像すら付きません。適正な保障設計をご提案する際には、罹患後の生活の一端でもイメージできるよう情報提供することも重要だと考えています。
なお、冒頭でご紹介したN医師もがん保険には入っていなかったそう。「こんなことなら、入っておけば良かった!」ですって。
黒田 尚子(くろだ なおこ)
CFP®認定者
1級ファイナンシャルプランニング技能士消費生活専門相談員資格
消費生活専門相談員資格
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
公開日: 2018年12月27日 10:00