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リースバックは地方の救世主となるか

最近、「リバースモーゲージの利用者が増加している」と聞きますが、地方都市に住む筆者に実感はありません。そもそも、リバースモーゲージの一般的な融資限度額が、「担保評価額の5割から7割程度」と考えると、地価の低い地方都市には適さないのが理由でしょう。
一方で、2018年11月から大手不動産チェーンが私の住む長野県内でも「リースバック」を開始しました。驚くべきことに「すでに数件の稼働実績がある」といいます。リバースモーゲージとの対比を含め、可能性を考えてみます。

1.リバースモーゲージとは
所有する不動産に(通常は高齢者)自らが居住したままそれを担保とし、自治体や金融機関から毎月の生活資金の融資を受け、死亡した時にその不動産を売却することで借入金(と利息)を一括して清算する仕組み(金融商品)のことです。
欧米で広く普及したことから1980年代に日本にも導入されましたが、直後に発生したバブルの崩壊(不動産価格の下落)等を背景に、都市部などを除き浸透したとは言いにくい状況が続いています。
また、借り手が想定以上に長生きした場合や、借入れの途中で担保物件の価値が下落した場合などに担保割れを起こすことから、貸し手側のリスクが大きいこと。一方の借り手側にも、融資条件に合わず満足な(あるいは全く)融資が受けられないケースがあること、融資開始後に貸し手側の条件変更や破綻リスクがあること、相続人の了承を得なければならないこと(相続せずに売却されてしまうため)といったリスクがあることから、利用には、貸し手借り手の双方にクリアしなければならない問題があります。

2.リースバックとは
自宅などの所有不動産を第三者(多くは不動産業者)に売却するものの、同時に売却先(不動産業者)と元の所有者が賃貸借契約(リース)を結ぶことで、売却した自宅にそのまま住み続けられるという仕組みです。
自宅に住み続けられるという点ではリバースモーゲージと変わりませんが、必要な資金を一括で受け取れるため、お金を借りる必要はありません。また、売却といっても不動産業者による買取りですから、新聞に折り込みチラシが撒かれることもありません。資金力が整えば再度自宅を買い戻すことも可能なことから、売買の事実を近隣に知られる心配は極めて少ないといえるでしょう。

さらに、リバースモーゲージは性質上、長期間の利用に向かない(※1)ことから利用者に一定の年齢制限(※2)を設けているものが普通ですが、賃料さえ支払えれば良いリースバックは若い世代でも利用できます。自宅だけでなく、ビルや田畑なども対象となるため、「田畑を売却して耕作を続ける」ことも可能です。お子様の進学などで一時的にまとまった資金が欲しいニーズなどにも利用価値があるかもしれません。

3.リースバック活用の注意点
一方でよく考えておかなければいけないのは、売却先の不動産業者の存在です。ボランティアではなく事業として不動産を買取る以上は、どこかで利益を出さなければならない宿命にあるお立場です。
多くは、元の所有者(賃借人)が退出した後、リフォームを施して売却する際に利益を見込んでいるはずです。この場合、賃借人(元の所有者)が高齢者ならともかく、若い人だと利益の発生(売却)が遥か先になってしまいます。私が不動産業者なら、それまでに少しでも利益が稼げるように、賃料を高めに設定して交渉するでしょう。賃料が思うようにもらえないなら、買取り価格を極力安く抑えようと努めるはずです。
このように、利用者は専門知識のある業者との交渉を経て制度利用にたどり着くことになります。世に2つとして同じ物件がない既存住宅の取り扱いですから、売買価格や賃料の設定が妥当であるか否かの見極めが難しい場面が多いように感じます。

リースバックは、地方都市に住む我々の新たな選択肢となり得る反面、いかに適正な取引を行うかという観点では、まだまだ課題がありそうです。

※1 貸付額が大きくなると担保割れを起こすため
※2 契約者本人55歳以上、配偶者がいる場合は配偶者の年齢が50歳以上など
関口 輝(せきぐち あきら)
AFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 事務局長
公開日: 2019年01月03日 10:00