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介護予防を呼びかける「事業対象者」の新設

 平成27年度の介護保険法の改正により「介護予防・日常生活支援総合事業(以下「総合事業」)が導入されました。「総合事業」は、日常生活の支援の幅を広げるために介護保険制度上の市区町村が行う地域支援事業の一つとして(1)介護予防・生活支援サービス事業と(2)一般介護予防事業の2つの事業で構成されています。これまで介護保険の対象として認定されている介護区分は、要介護1~5と要支援1、2でした。しかし今回の改正で、必ずしも認定まで至らなくても介護保険サービスが利用できる「事業対象者」が介護区分に新設されたことで、比較的症状の軽い高齢者の方まで対象が広がりました。
 「事業対象者」は65歳以上の高齢者で、加齢により機能の低下等で日常生活に不安を感じる方や過去に要介護認定で「自立」と判断された方など、居住する場所の地域包括支援センターの窓口で「基本チェックリスト」により判断されます。

(1)介護予防・生活支援サービス事業
 サービスを受けられるのは、基本チェックリストで「事業対象者」と判断された方と要支援1、2の方です。
 これまで要支援1、2に限られていた予防給付の①訪問型サービスと②通所型サービスが「事業対象者」も利用できるようになりました。①訪問型サービスでは、訪問介護事業所による身体介護・生活援助、民間事業者等による調理・掃除・洗濯等日常生活上の支援など、②通所型サービスでは機能訓練等の通所介護やデイサービス等の利用など、予防給付と同じサービスから住民主体の緩和されたサービスが多様に提供されます。短期間で提供する短期集中予防サービスや、そのほか配食や見守りなど自立した生活の支援を目的としたサービスなど、地域の実情に合わせたサービスが利用できます。
 要介護認定者が介護保険を利用する場合、支給限度額(※1)の範囲で1~2割の自己負担となり、支給限度額を超えた部分は全額自己負担となります。同じく介護予防・生活支援サービス事業を利用する「事業対象者」も支給限度額の範囲で1~2割の自己負担となり、予防給付の要支援1の限度額を目安として毎月5,003単位(1単位≒10円)です(※2)。地域住民主体の多様なサービス等の利用が考えられることから、要支援2の限度額内である10,473単位まで利用できる場合がありますが、保険者である市区町村の実施する内容やケアプランによって検討されます。サービスを提供する場合の1単位あたりの単価は、地域区分(※3)等を考慮し市区町村により定められます。

(2)一般介護予防事業
 「事業対象者」を判断する「基本チェックリスト」で対象外となってしまった方でも受けられるサービスです。対象者は、要介護認定者・事業対象者を含むすべての65歳以上の方及びその支援のための活動に係る家族や支援者です。市区町村を中心に健康向上のための教室や認知症予防の講座など、交流が持てる通いの場が提供されています。お住いの市区町村でどのような取り組みをしているのか「総合事業」で検索してみましょう。ご家族の方が調べて、一緒に参加しても良いでしょう。

 「総合事業」は、現段階でまだ実施していない市区町村がありますが、平成29年度末には全保険者での実地を目標としています。市区町村が今後どのような取り組みをして高齢者のためのサービスを提供していくか私たち住民の課題として考えていくことも大切なことです。人と交流し合える充実した老後の生活を楽しく過せるように、このようなサービスを知らない高齢者やご家族へ教えてあげることも安心へとつながるでしょう。

※1 要支援1:5,003単位 要支援2:10,473単位 要介護1:16,692単位 要介護2:19,616単位 要介護3:26,931単位 要介護4:30,806 要介護5:36,065単位
※2 厚生労働省「介護予防・日常生活支援総合事業における介護マネジメントの実施及び介護予防手帳の活用について」参考
※3 厚生労働省「地域区分について」参考 平成27年度~平成29年度の介護給付および予防給付において、その他の地域の1単位10円に対し、1級地20%、2級地16%、3級地15%、4級地12%、5級地10%、6級地6%、7級地3%の上乗せ割合がある
宇田川 京子(うだがわ きょうこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 研究員
公開日: 2017年03月16日 10:00