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セカンドライフに向けた収支計画

若年では考えもしなかった退職後の生活を、40代または50代あたりで考え始め、しかし公的年金だけでは不足するまたセカンドライフの資金を、いくら貯めたら良いかもわからないという方も多いようです。また、併せて考えておきたいのは生活費のダウンサイジングで、退職後の収支計画をできるだけ早い段階から考えておきましょう。

特に年収の高い方は要注意
二人以上世帯の平均消費支出(※1)は、月額約31万円です。世帯主の年収別に5階級に分けると、最も低い449万円までの層で約21.1万円、最も高い903万円以上の層で約44.2万円となり、支出額に2倍以上の差があります。

しかし、その生活を支える収入は退職後に公的年金へと変わり、公的年金の受給額(※2)は退職時の年収が400万円では月額換算約17.8万円、退職時の年収が900万円では月額換算約24.8万円です。年収では2.25倍もの差があるにも関わらず、公的年金受給額は1.39倍程度でしかないことに気づきます。

つまり年収400万円で毎月の支出21.1万円の世帯が受け取れる公的年金は月額約17.8万円で3.3万円不足するのに対して、年収900万円で毎月の支出44.2万円の世帯が受け取れる公的年金は月額約24.8万円ですから、不足する額は19.4万円と圧倒的に大きくなってしまうのです。これを65歳以降90歳までの25年間、預貯金だけで埋めるためには3.3万円の差額では990万円、19.4万円の差額では5,820万円が必要となり、現役時代の収入と公的年金の差が大きい年収の高い世帯では、生活費のダウンサイジングも考えなくてはなりません。

差額を埋める対策
収支の差を埋めるためには、(1)預貯金で準備する、(2)働いて収入を得る、(3)生活コストを下げる、という選択肢があります。

(1)預貯金で準備をする
闇雲に貯めるのでは現役の時に使えるお金が乏しくなります。65歳以降の公的年金収入、仕事による収入、生活コストを勘案して貯めるべき金額を算出しましょう。毎月貯めるべき金額は「((65歳以降の支出-公的年金(月額換算))×300ヶ月(※3)-(退職金+65歳以降の仕事による収入総額))÷65歳までの月数」で計算できます。例えば65歳以降は31万円の支出、公的年金が月額換算19.2万円、退職金1,000万円、65歳以降は月収15万円で3年間働く予定、現在45歳であれば8.3万円を毎月貯める必要があります。

(2)働いて収入を得る
退職後に公的年金をもらいながら働くと年金が減らされると心配し、働くことをやめてしまう方もいますが、老齢厚生年金の月額と給与収入の合計が65歳未満では28万円まで、65歳以上では46万円になるまで年金が減額されません。

また、働くというと継続雇用やアルバイトなどをイメージするかもしれませんが、もっと自由に発想しても良いはずです。起業や独立は特殊な技能や特別な人脈等を持った人の選択肢ではありません。さらに、すでに取引先や設備、人員が揃っている会社の経営を引き継ぐという手段もあります。大手企業で管理職を務め、10~20人程度の部下を率いた経験のある人は、同じ規模の零細企業の経営に生かせるノウハウを持っているケースが多く、ましてや同じ業界であれば取引先や仕入れ先などとのつながりも活かせるでしょう。

(3)生活コストを下げる
退職日を境に急激に支出を減らすことは非現実的です。遅くても5年くらい前からは退職後の生活を想定して、支出を減らす訓練が必要だといえます。また、単純に生活費を下げるだけでなく、所定の年齢以上を対象とした割引制度を積極的に活用してみましょう。JR各社のきっぷや旅行代金、テーマパークや映画館の入場料などを割引する制度などは数多く存在します。例えば、JR東日本の「大人の休日倶楽部(※4)」では、5日間でJR東日本、JR北海道全線を26,000円で、新幹線を含めて乗り放題になるサービスもあり、上手に活用するとコストを抑えて楽しめます。

50歳を超えたらセカンドライフに向けた支出のダウンサイジングを楽しみながら実践し、退職後が楽しくなるような計画を立ててみましょう。

※1総務省統計局:全国消費実態調査(2014年)
※2年金算出条件:夫婦ともに昭和33年3月生まれ。夫は40年間の会社員、妻は35年間の第3号被保険者期間のみ(65歳から夫婦が受け取る老齢基礎年金、老齢厚生年金額の概算額)
※3たとえば90歳までの生活を考えた場合
※4満50歳から入会可能
市川 貴博(いちかわ たかひろ)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 主任研究員
日本FP協会静岡支部 幹事
公開日: 2019年05月30日 10:00