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登記は遺言より優先される
相続が起こった際には、相続人の一人が他の相続人の了解を得なくても、法定相続分で登記することは可能です。登記により不動産の所有権を外部に主張するわけですが、改正前には、有効な遺言があったならば、たとえすでに登記されていたとしても、遺言の内容が優先されたのです。
しかし、民法改正により、対外的には遺言優先という判断はされなくなります。遺言に法定相続分を超える分の財産(不動産)承継の指定があったならば、できるだけ早く相続登記しないと、遺言があってもその内容を実現できないおそれがあるのです。
<ケース1>
相続人が妻と子2人で、遺言により不動産を妻に相続させると指定があった場合で見てみましょう。このとき法定相続分は、妻が2分の1、子は各4分の1です。
改正前は、子が勝手に法定相続分で登記して、子の相続分(4分の1)を他者に売却してしまった場合でも、遺言により妻は所有権の主張ができました。
しかし、改正後は妻は法定相続分を超える分(2分の1の部分)については、相続登記をしていない限り、確実に所有権の主張ができなくなりました。
裁判になって、さまざまな状況を考慮した上で、遺言内容が優先されるケースもないとは言えませんが、裁判には時間もお金もかかりますし、裁判で勝てる可能性は低くなります。
<ケース2>
ケース1で、子の1人に債務があり、債権者が子の債務を回収するために子の法定相続分を差し押さえた場合で見てみましょう。
改正前は遺言優先の基準で考えれば、本来の不動産権利者は妻となります。そのため、債権者の差し押さえは無効になる可能性もあります。
ところが改正後は、妻が相続登記する前に、差し押さえを実行してしまった場合には、その不動産の差し押さえは有効になってしまいます。もちろん、妻には子が負担すべき債務をその子に請求する権利はあります。しかし、対外的にはその不動産は妻の所有であると主張しても、受け入れられない可能性が高くなるのです。
相続人に大きな借金を抱えている人がいる場合には、要注意です。
今回の改正は、登記制度や強制執行制度の信頼を高めるためのものです。確かに、不動産取引では、登記事項証明書の記載事項だけでは誰が本当の所有者かわかりにくいという問題があり、そのためには必要な改正だったのかもしれません。
しかし、相続においては、新たな問題が起こる可能性が出てきました。「遺言を準備すれば大丈夫」ということではなく、手続きにおいても迅速かつ慎重な対応が必要です。相続アドバイスを行う方には、これまで以上に慎重なアドバイスが求められます。
山田 静江(やまだ しずえ)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 研究員
日本FP協会埼玉支部 副支部長