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共働き世帯における遺族年金の注意点
■遺族年金における男女格差
今回取り上げる遺族年金は、「夫が死亡した際の妻」に比べ「妻が死亡した際の夫」の受給要件が厳しいため、共働きなどで、妻の収入割合が大きい世帯は注意を要します。
そもそも遺族年金とは、公的年金の被保険者が死亡した際の遺族の生活保障を目的とした、いわば生命保険や生命共済のようなものです。厚生年金の被保険者である勤労者世帯が受け取れる年金には、国民年金から支給される遺族基礎年金、寡婦年金、死亡一時金と、厚生年金から支給される遺族厚生年金、中高齢寡婦加算、経過的寡婦加算があり、その時の家族構成等に応じて受給要件に当てはまる年金を受け取ります。
まず、遺族基礎年金を受給できる遺族は、死亡した人に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」です。年金法上「子」とは、18歳に達した後の最初の3月31日までの未婚の子を指すので、ここでは単純に「高校を卒業するまでの子」とお考えください。なお、1級、2級の障害のある子の場合は20歳の誕生日までが対象です。
この遺族基礎年金は、昭和61年の改正までは「母子年金」と呼ばれてました。名称が変わったあとも「母と子」だけしか受け取れませんでしたが、昨今の社会情勢を反映し、平成26年4月以降は「父と子」も受け取れるようになりました。なお、自営業者などの第1号被保険者である夫が死亡した場合、子がいない場合でも、要件を満たすことで寡婦年金や死亡一時金を受給できますが、寡婦年金の対象となるのは夫を亡くした妻だけとなります。
一方の遺族厚生年金を受給できる遺族は、死亡した人に生計を維持されていた配偶者、子、父母、孫、祖父母ですから、遺族基礎年金に比べて受給者の範囲は広くなります。
ただし、夫、父母、祖父母が受給できるのは、被保険者死亡時に55歳以上の場合に限られる上、実際の受給は60歳に達した時からです。夫婦で考えた場合、夫が死亡した時の妻に比べ、妻が死亡した時の夫の要件が厳しくなっているのです。
■妻が亡くなった場合の給付
例えば、「妻が亡くなって、夫と18歳年度末までの子が遺族となった」場合を考えてみましょう。この場合、まず夫は遺族基礎年金を受給します。また、妻の死亡時に夫が55歳以上であれば、本来は60歳からしか受け取れないはずの遺族厚生年金も、遺族基礎年金と併せて夫に支給されます。
一方で、夫が55歳未満であれば、夫は遺族基礎年金だけの受給資格を持ち、遺族厚生年金は受給できません。ただ、18歳までの子がいるため、その子が遺族厚生年金を受給します。結果的に、世帯としては遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給できますが、遺族基礎年金は夫に、遺族厚生年金は子に対して支給される点にご注意ください。
なお、この場合、子がいない(または18歳年度末を超えている)と遺族基礎年金と遺族厚生年金ともに支給されません。また、厚生年金には中高齢寡婦加算がありますが、受け取れるのは「40歳から65歳までの寡婦(=夫と死別または離別し、再婚していない女性)」に限られるため、男性には支給されないのです。
■共働き世帯の遺族保障のポイント
ここまでの話を、夫婦共に厚生年金の被保険者で、10歳の子がいる世帯でまとめてみましょう。
まず、夫が死亡した場合、妻は遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給します。子が18歳の年度末を迎えると遺族基礎年金の受給は終わりますが、その時点40歳以上であれば、65歳になるまでの期間、中高齢寡婦加算を受給できます。
一方、妻が死亡した場合、夫は遺族基礎年金を受給するものの、55歳以上でなければ遺族厚生年金は受給できません。この場合、子が遺族厚生年金を受給しますが、子が18歳の年度末を迎えると、遺族基礎年金とともに遺族厚生年金も受給が終わります。その後の中高齢寡婦加算も夫は受給できません。
共働き世帯で、夫婦の年収が同程度の場合、自分で加入するべき死亡保障がより多く必要なのは、夫ではなく妻となるケースがある点を理解し、世帯の状況に合わせた生命保障の準備を考える必要があるのです。
なお、遺族年金は、たとえ受給権があったとしても、請求しなければ受給できない点も忘れないようにしてください。
栗本 大介(くりもと だいすけ)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 主任研究員
株式会社エフピーオアシス 代表取締役