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老齢年金の受給者が働いて収入を得ると損なのか?

2019年12月19日に、全世代型社会保障検討会議の中間報告が公表されました。年金分野では、受給開始時期の選択肢の拡大や厚生年金の適用範囲の拡大と共に、在職老齢年金制度の見直しが盛り込まれています。一定の要件に当てはまる場合、月額の報酬と年金の合計額に応じて年金が減額される制度ですが、そもそも制度を正しく理解していないケースも多く、誤解も多いようです。

■在職老齢年金の仕組み
在職老齢年金は「職の在る人の年金」という文字通り、老齢年金を受け取れる状態の人が働いて収入を得ると、年金+報酬(お給料)の合計額に応じて年金が減額される仕組みです。細かい話はさておき、60歳~64歳の場合、厚生年金の報酬比例部分の年金額を月に換算した「基本月額」と、勤務先から得る「総報酬月額相当額」の合計額が28万円を超えた場合に、超えた金額の2分の1が減額されることになります。なお、「総報酬月額相当額」は、「標準報酬月額+(過去1年間の賞与額÷12)」で計算されます。つまり、毎月のお給料が15万円でも、ボーナスが年間60万円あれば、ひと月当たり20万円として計算されるわけです。ちなみに、65歳以上になると減額対象となる金額の基準が変わり、老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計額が47万円を超えた部分が減額対象です。

■働いて収入が増えても損をするわけではない
このように、収入に応じて年金が減額されることから、働いて収入が増えたら損と考える人がいらっしゃいますが、これは誤解です。
在職老齢年金の仕組みを見ると、減額されるのは「一定額を超えた部分の2分の1」が原則です。64歳までの方はこの一定額が「28万円」なので、例えば、年金月額が10万円で、総報酬月額相当額が20万円のケースで考えましょう。
2つの合計額は30万円ですから、28万円を超えた2万円の2分の1、すなわち、1万円が減額されます。年金月額10万円から1万円を引くと9万円。総報酬月額相当額との合計は29万円となるため、確かに損をしたように見えます。でも、もしこの人が減額を避けて総報酬月額相当額を18万円に抑えた場合、年金月額との合計は28万円ですから、収入が増えることで年金が減額となっても受け取る総額は増えていることがわかります。「働いて収入が増えると損をする」というのは誤解なのです。
考え方や意見は人それぞれですから、こうした仕組みが良いか悪いかという議論はさておき、少なくとも、制度の仕組みをしっかりと理解し、自分に対する影響がどうなのかは、自ら計算できるようにしておきましょう。

なお、減額調整されるのは厚生年金の被保険者として働く人に限られる点にも注意が必要です。厚生年金の被保険者というのは、大雑把に言うと、会社などの組織で働いてお給料を得ている人です。逆を言えば、自営業者のように、厚生年金の被保険者にならない場合は、どれだけ収入を得ていても減額調整されません。また、65歳以上の減額対象となる年金に「老齢基礎年金」は含まれません。つまり、どれだけ収入が多くとも、老齢基礎年金は満額受けることができるのです。

■在職老齢年金を巡る今後の議論
今回の中間報告では、60歳~64歳の減額対象となる基準額を28万円から47万円に引き
上げることが提言されています。試算によると、減額対象となる人が現在の約67万人から約21万人に減り、約46万人が年金を満額もらえるようになるそうです。確かに年金が減らないのはありがたいことですが、一方でこれらを支える財源が必要となり、この金額が約3,000億円と見込まれています。
高齢無職夫婦世帯の収入の内訳をみると、91.5%を占める社会保障給付費の多くを老齢年金が担うため、高齢者の大切な収入源であることは間違いありません。一方で、少子高齢化が進行する中で、何もかも社会保障に頼ることは今後ますます難しくなるでしょう。自助努力である勤労収入を増やす意味でも、働く意欲を削ぐと言われる在職老齢年金制度を見直すこと自体は望ましいのかもしれません。ただ、当初は、65歳以上の基準額も現在の月47万円から月62万円に引き上げることが検討されましたが、「金持ち優遇だ」との批判もあり、現状のまま据え置かれる予定となりました。
実際の制度改正は早くても2021年以降の予定ですが、これまで当たり前のように考えられてきた各種制度も、世の中の状況に応じて今後も見直される機会は増えることでしょう。
 
栗本 大介(くりもと だいすけ)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 主任研究員
株式会社エフピーオアシス 代表取締役
公開日: 2020年01月30日 10:00