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2020年1月税制改正により、損する人と得する人
1.基礎控除額の引き上げ
納税者が税金を計算するうえで、すべての納税者に一律に適用される控除金額があります。これを「基礎控除」といいますが、税制改正によって2020年1月から10万円増の48万円に引き上げられました。
基礎控除とはいわゆる「経費」のようなもの。すなわち、年収(収入)が同じ場合、経費が引き上げられたということは、その分「利益」(所得)が減りますので、結果として税負担が減ることになりました。
ただし、合計所得金額が2,400万円から徐々に控除額が減っていき、2,500万円を超えると基礎控除の対象から外れるため、2,400万円以上の方は、税負担が増えます。そうはいっても、「合計所得金額2,400万円以上の一般勤労者」という方はそうはいないので、一般勤労者であるならば無視してもらって構わないでしょう。
2.給与所得控除額の引き下げ
日本の税制は、収入に対していきなり税率を掛けて税額は計算しません。収入から経費を差し引いてくれますが、給与所得者の場合、その経費のことを「給与所得控除」といいます。自営業者の場合の経費とは、搔き集めた領収書(事業用)の合計額を経費として確定申告しますが、一般勤労者の場合は、特段何もしなくとも、年収の約3割を経費として認めてくれます。
1.の基礎控除の引き下げとセットで実施されたのが、この給与所得控除額の一律10万円引き下げです。同時に、給与所得控除額の上限額が変更となり、年収1,000万円超から850万円超に引き下げられ、控除額の上限額が220万円から195万円となりました。簡単にいうと、税制改正により、年収850万円を超える方は、約3割の経費が25万円縮小されるため、所得税が増税されます。
3.損をする人と得する人は誰なのか?
一般勤労者の方は、1.基礎控除額の10万円引き上げと、2.給与所得控除額の10万円引き下げが同時に適用されるため、プラスマイナスゼロとなり影響がないことがわかります。
したがって、今回の改正により損をする人、すなわち増税対象者は、年収850万円を超える方です。ただし、増税対象者で子育てや介護をしている方などの負担を減らすために、新しい所得控除である「所得金額調整控除」が設けられています。
(1)本人が特別障害者
(2)年齢23歳未満の扶養親族がいる
(3)特別障害者を養っている家族がいる
(1)~(3)いずれかに該当する方は、(年収-850万円)×10%の額を経費として差し引けることになりました。ただしこの調整も、年収1,000万円が上限で一律15万円となります。
ちなみに国税庁「平成30年分民間給与実態統計調査結果」によると、一般勤労者の平均年収は440.7万円。年収850万円を超えてくる方は、ごく限られた一部の方といえるでしょう。
一方で、得する方はどんな方かというと、2.給与所得控除の引き下げの影響を受けない方、すなわち自営業者です。自営業の方の経費の算定方法である、搔き集めた領収書(事業用)の合計額に変更はないため、基礎控除額の10万円引き上げによる恩恵のみを受けることになるからです。
近年、働き方が多様化しています。今回の改正は、会社員などと同じような仕事、働き方をしているにもかかわらず給与所得控除が使えないフリーランスや個人請負などの自営業者と、一方で当然に給与所得控除を使える会社員などとの税負担での不公平感をなくし、所得格差をなくしたいという流れがひとつの背景にあるといえます。
宮下 貴博(みやした たかひろ)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 主任研究員