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トラブルが増加し続ける外貨建て保険について考える

外貨建て保険とは、円を米ドルなどの外貨に交換して保険料を支払い、死亡保険金や満期保険金、解約返戻金などを外貨または円に交換して受け取る保険商品です。為替相場の影響を受けることで、支払う保険料や受け取る保険金などは変動しますが、保険としての性質は円建て保険商品と何ら変わりがありません。契約件数は毎年増え続けていますが、同時に苦情件数も増え続け、2014年に922件だったものが2018年には2,543件にまでなりました。

為替リスクがある
一般的に外貨建て保険は、支払う保険料が外貨で定められており、為替変動により月々の円換算保険料が変動します。たとえば保険料が月々100米ドルの場合、為替レートが1米ドル=100円の時は10,000円を支払いますが、円高になり1米ドル=90円になると、支払う保険料は9,000円で済みます。逆に円安となり為替レートが1米ドル=110円となった時は、11,000円を支払うことになります。

また、保険金や解約返戻金を受け取る時も同様に、死亡保険金が5万米ドルと定められている場合、死亡時の為替レートが1米ドル=100円では500万円を受け取れるのに対して、1米ドル=90円では450万円と減少し、1米ドル=110円では550万円と増加するため、為替相場の変動は保険加入者にとってメリットにもデメリットにもなります。

諸費用がかかる
保険会社により異なりますが、円建て保険ではかからない諸費用がかかります。

(1)為替手数料(保険料の支払い時、保険金等の受け取り時)
(2)契約初期費用(契約時)
(3)解約控除費用(解約時)
(4)年金管理費用(保険金などを年金受取した場合)
(5)外貨取扱費用(保険金などを外貨で受け取った場合)

特に注意したいのが(3)解約控除費用です。契約日から10年間は経過期間に応じて所定の金額が解約返戻金から差し引かれるというもので、たとえば、一時払い契約で500万円を支払った直後に解約すると、10%程度の解約控除費用が差し引かれて450万円程度しか受け取れないこともあります。これらは契約年齢や性別などにより、その額が一律ではないことを理由に、パンフレットなどでは具体的な金額が記載されません。契約時の説明不足もあり、よく理解しないまま契約しているケースが多くみられ、トラブルの一因となっています。

死亡保障としての魅力
一方で、外貨建て保険のメリットもあります。外貨建て終身死亡保険は円建て終身死亡保険と比べて、保険料の安さが魅力的です。たとえば、円建て商品のオリックス生命「終身保険(低解約返戻金型)ライズ」に死亡保障1,090万円(※1)で加入すると、契約時年齢30歳(男性)、保険料払込期間60歳では、保険料23,588円(月払い)です。これが、メットライフ生命「ドルスマートS」の場合(※2)、保険料は16,187円(月払い)(※3)です。外貨建て保険は為替レートにより保険料が増減するため確定した金額ではありませんが、結果として保険料が安くなる可能性があります。

貯蓄としての魅力
個人年金保険の場合、解約返戻金や満期保険金などを払込保険料累計額で除した返戻率で比較すると、マニュライフ生命「こだわり個人年金(外貨建)」は、契約時年齢30歳(男性)、60歳満期の場合、払込完了直後に一括受取した場合の返戻率は132.0%となり、100%を下回ることさえある円建て個人年金保険に比べて有利といえます。こちらも、為替レートによっては有利不利が逆転することもありますが、明らかに外貨建て保険のメリットが存在します。

説明不足と理解不足
苦情の相談内容を見てみると、販売側の説明不足は大きな問題ですが、同時に契約者側の「よくわからないまま契約した」「言われるままにハンコを押した」など、理解も納得もしていないのに契約しているケースも見逃せません。

販売担当者の説明に理解できない部分があり、商品の良し悪しを明確に判断できない場合は契約しない、という心構えがトラブルの未然防止に有効です。

メリットもデメリットもある外貨建て保険ですが、「どれが得か」という視点だけでなく「自分が理解できている商品か」という視点を持ち、自分自身で納得した上で契約するようにしましょう。



※1 メットライフ生命の保険金1,093.5万円と比較。ただし、オリックス生命の契約金額が10万円単位のため
※2 死亡保障100,000米ドル。1円=109.35ドルで換算(メットライフ生命、2020年1月28日レート)で1,093.5万円
※3 148.00ドル(2020年1月28日、メットライフ生命の円入金用為替レートで計算)
市川 貴博(いちかわ たかひろ)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 主任研究員
日本FP協会静岡支部 幹事
公開日: 2020年03月05日 10:00