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近年増えている水災害への備えは大丈夫?
こうした背景の影響か、水災害に備えていない世帯が多いようです。平成29年3月に内閣府防災担当が発表した「保険・共済による災害への備えの促進に関する検討会報告」によれば、持ち家世帯の水災害保障への加入率はおよそ66%(※1)と報告されています。
2019年10月に発生した台風19号は、後に「令和元年東日本台風」と名付けられるほど大型かつ猛烈な台風でした。大雨特別警報が発表された長野県、静岡県、東京都、岩手県などを含む1都12県では、記録的な大雨と風により河川の氾濫を含む甚大な被害が広範囲に発生しました。また、10月24日から26日にかけては、太平洋沿岸に沿って進んだ低気圧と台風21号の影響が重なり、関東地方から東北地方にかけて太平洋側を中心に広い範囲で大雨の被害が広がりました。総務省消防庁の2020年4月10日発表資料によると、この台風19号、21号による住宅被害は、全壊3,308棟、半壊30,024棟、一部破損37,320棟、床上浸水8,129棟だといいます。
火災保険の場合、水災害を不担保にすると保険料が安くなります。保険会社により差はありますが、ある保険会社では、水災害を不担保にすることで年間保険料31,630円(※2)の2割強にあたる7,530円が下がるため、保険料を安くしたいがために水災害補償に加入しない方も多いといいます。また、水災害補償に加入しない他の理由として、「河川が近くに無い」や「自宅が高台にあり、床上浸水の可能性が低い」という声も聞きます。しかし、河川が近くに無い場合でも、自宅が高台にある場合でも、多くの水災害が発生している実態があります。
水災害の原因は外水氾濫と内水氾濫に大きく分けられます。外水氾濫とは、河川を流れる水量が大雨などにより増え、堤防から水が溢れたり、破堤したりして家屋などが浸水するケースを指します。河川に近い住宅地などであれば、一般的な水災害として想像しやすいものでしょう。一方で内水氾濫は、市街地に降った雨(内水という)が下水道や排水路からポンプ施設を経由して河川へと排水される過程で起こります。施設の処理能力を超える大雨が降ったり、降雨で河川の水位が上昇したりして排水ができない(追い付かない)ことで、家屋側へと逆流するものです。外水氾濫と違い、河川からの距離に関係なく、周囲との高低差により水が溜まりやすい地域に起こります。周囲との高低差が小さく、ゆるやかな傾斜になっている場合などでは、見た目にはどこが低いのかがわからず、雨水が溜まって初めて水災害のリスクに気づくことも少なくありません。
最近では内水氾濫による被害が増えています。2018年の台風7号がもたらした西日本豪雨では、全国で床上浸水が8,937戸発生しましたが、そのうち内水氾濫による浸水被害は、西日本を中心に19道府県88市町村で6,104戸と全体の68%にもなりました。また、風水害による被害額も増加しており、同じ2018年には9月4日に日本に上陸し大阪府、京都府、兵庫県などに大きな被害を与えた台風21号により、火災保険全体ではおよそ9,363億円、こくみん共済coopでは共済金として273億円が支払われました。
住宅購入時に住宅販売業者が提示する資金計画書には、住宅購入価格のほかに様々な諸費用が計上され、住宅購入の費用総額が記されています。しかし、そこでは火災や自然災害に対する共済・保険の予算取りが少ないことがしばしばです。また営業担当者からは、その資金計画書を正当化するためか「この地域では水災害が起こる可能性はほとんどない」のように、加入する火災共済や保険に水災害を担保しないよう勧める発言もみられます。しかし、最終的な責任は加入者自身にあります。ハザードマップの確認を含め、家族全員が安心できる保障を備えましょう。
※1 保険の場合2015年調査によると水災補償付帯率は73.4%
※2 木造住宅(H構造)、保険金額2,000万円、東京都、1年契約で試算
市川 貴博(いちかわ たかひろ)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野® 主任研究員
日本FP協会静岡支部 幹事