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使いやすくなった自筆証書遺言、メリットと留意点

2020年7月10日より自筆証書遺言を法務局で保管できる制度(以下、保管制度)が始まりました。今回の改正により、自筆証書遺言が利用しやすくなりましたので、そのメリットや留意点などについて解説します。

■遺言書の種類
遺言書とは、自分の死後、財産をどのように引き継いで欲しいかなどを生前に書きしたためた書類です。遺言書には大きく3つの種類があります。①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言です。今回、制度改正があったのは①自筆証書遺言です。

■自筆証書遺言とは
遺言者が遺言書の全文、日付、氏名を手書きし、押印する遺言書です。全文を手書きすることが原則で、ワープロや代筆は不可とされていましたが、2019年1月13日からは、相続財産の目録(財産目録)に限って手書き以外の方法が可能になりました。ただし、財産目録の各ページに署名押印が必要です。また、銀行通帳の写しや登記事項証明書(登記簿)を添付できるようになりました。

■保管制度によるメリット
1)法務局で形式チェックをうけられる
自筆証書遺言では、財産目録以外の部分は全文を手書きし、日付、氏名を自書し、押印しなければなりません。こうした要件が満たされていない遺言書は無効となりますが、保管制度では法務局が形式的なチェックを行うため、そのようなリスクを避けられます。

2)家庭裁判所による検認手続きが不要
相続発生後に自筆証書遺言が発見されると、遺族はすぐに開封することはできません。家庭裁判所に提出し、検認の手続きをしますが、これには手間と時間がかかります。保管制度では、保管前に法務局が形式に不備がないかをチェックするため、検認の手続きが不要になります。

3)改ざんや隠ぺいの心配がない
自宅ではなく、法務局で保管されますから、改ざんや隠ぺいの恐れがありません。自筆証書遺言でありながら公正証書遺言と同様の安心感が得られます。

4)遺言書が見つからないリスクを回避できる
自宅で保管をする場合、遺言書が遺族に発見されないことも考えられます。保管制度では遺言書がデータ化され、どの法務局でも閲覧できるようになります。つまり遺族には、自分が亡くなったら法務局に問い合わせるよう伝えておけばよいのです。

■遺言書保管制度の留意点
保管制度を利用する場合、遺言者自身が法務局に出向かなければなりません。代理人による手続きは認められていないため、例えば病気等の理由で法務局に出向くことができない場合は制度を利用できません。

保管制度では、氏名や日付など形式面でのチェックは法務局が行いますが、遺言書の内容についての相談や助言は受けられません。法的に問題のない遺言書を作成するなら、やはり公正証書遺言のほうが確実だといえます。

その他の留意点としては、遺言の内容が他人に漏れてしまう可能性がある、若干の費用がかかる(遺言書1件あたり3,900円)などが挙げられます。

■遺言書で全ての相続トラブルを回避できない
今回の改正により、自筆証書遺言を利用しやすくなったことは確かですが、遺言書により相続トラブル全てを回避できるわけではありません。例えば、遺言書によって誰がどの財産を引き継ぐかを決めておいたとしても、相続発生後の遺産分割協議で、遺言書の内容とは違う分け方になるケースもあります。特定の財産について「特定の親族に引き継いで欲しい」という願いがあれば、生前贈与のほうが確実です。

また、相続トラブルは財産がらみのトラブルばかりとは限りません。葬儀をどのように行うかについて、親族間で揉めるケースもあります。また、亡くなった方の預金口座等の名義変更、保険や共済の請求など、遺族が行う手続きは多岐にわたるため、それをストレスに感じることもあります。これらの手続きを円滑にし、遺族のストレスを軽減するには遺言書だけでは不十分で、エンディングノートの活用が不可欠となります。

相続後のトラブルを未然に防ぐためには遺言書だけでなく、生前贈与やエンディングノートの活用が欠かせないことを肝に銘じておきましょう。
中山 浩明(なかやま ひろあき)
CFPファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野® 研究員
公開日: 2020年07月30日 10:00