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受給資格期間の短縮から考える公的年金の意義
将来年金はもらえるのか
私たちは20歳から60歳になるまでの40年間※1 、国民年金保険料の支払いが義務付けられています。会社員や公務員など厚生年金保険料※2 の支払いしかしていない人も、厚生年金を通じて国民年金保険料を納めている扱いとなっているので安心してください。会社員や公務員の配偶者である期間も、第3被保険者として届け出が出されていれば、保険料納付済期間として扱われます。なお、保険料の免除や猶予の届け出が受理されている期間は、将来の年金額には反映しないものの、受給資格期間としてカウントしてくれます。これらの期間の合計が10年以上あれば、65歳から老齢年金を受給できます。
これまで、受給資格期間が25年だったことで年金を受け取れなかったいわゆる「無年金者」を救う大事なポイントをひとつ。10年以上の保険料納付済期間がある方は、年金事務所や「街角の年金相談センター」の窓口で「年金請求書(国民年金・厚生年金保険老齢給付)」を提出する必要があります。
支払った分は返ってくるのか
さて、年金を受給できることと、年金額がいくらになるのかは別の問題です。20歳から60歳までの40年間のうち、全期間の保険料をしっかり納めた方は、65歳以降に年額で779,300円※3(月額64,942円)の老齢基礎年金を受給できますが、保険料を納めた期間が4分の1の10年の場合、受給額も4分の1の年額194,825円(月額16,235円)となります。生活するのに十分な金額とはいえないものの、一生受け取れる安心感があるのは、公的年金の最大のメリットと言えます。
さらに、保険料の支払い総額と年金受給額の総額の差を平均寿命※4(男性80.75歳、女性86.99歳)まで生きると仮定して計算すると、公的年金の優位性がわかります。最低限の受給資格期間を満たす10年で計算をしてみると、支払い保険料の合計額は1,978,800円(197,880円(16,490円※5×12か月)×10年)、これに対し受け取れる年金の合計額は男性が3,117,200円(16年(81歳‐65歳)×194,825円)、女性が4,286,150円(22年(87歳-65歳)×194,825円)となります。あくまでも平均寿命まで生きると仮定しての計算ですが、将来の受給に大きな不安が語られることの多い公的年金が、実は現在の水準においてもまだ受給額のほうが大きくなる可能性が高いのです。ちなみに、年金受給額の満額と国民年金保険料は、物価や賃金の状況に応じて毎年変動するため、今後の改定にも注意が必要です。
なお、老齢基礎年金に上乗せされて支給される老齢厚生年金も、受給するために必要な要件は「老齢基礎年金の受給資格期間を満たしていること」※6なので、今回の改正によって新たに受給対象となる人が増えることになります。
受給資格期間を満たすためにはどうすればいいか
国民年金保険料の納付期間は、20歳から60歳までと決まっていますが、受給資格期間に満たない場合、60歳以降も自分の意思で保険料を納付できます。これを「任意加入制度」と言います。受給資格期間を満たしているけど金額が少ない方は65歳まで、10年を満たしていない方は最長70歳になるまで任意加入できるので、将来の年金額を増やすことも可能です。ただし、満額以上に増えることはありませんので、40年の納付を満たしている方は対象外です。
現役世代で保険料の未払いのある方は、平成30年9月まで過去5年分の国民保険料を納めることができる後納制度が実施されています。過去の未払い期間を整理しておくことも将来の年金額を確保するために重要です。
「国の年金は、保険料を支払っても将来もらえるかどうか不安」という声をよく聞きますが、「保険料を10年以上納めれば、納付した期間に応じた金額がもらえる上、平均寿命まで生きていれば、支払った保険料に対する受給額の割合も決して少なくない」ということを改めて意識してみると、公的年金制度の大きな意義、しいては、社会保障の大切さにも気づくものです。
※1 免除期間や合算対象期間(カラ期間)を含む
※2 船員保険を含む厚生年金保険や共済組合等
※3 平成29年度の年金の満額
※4 平成29年3月1日発表 厚生労働省 第2回生命表の概況参考
※5 平成29年度の支払い保険料(毎年度の国民年金保険料=平成16年度の改正で決められた保険料額×保険料改定率(前年度保険料改定率×物価変動率×実質賃金変動率))
※6 日本年金機構 年金の受給(老齢年金)参考
宇田川 京子(うだがわ きょうこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
研究員