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意外と多い⁉「つみたてNISA」で短期の利益確定

2018年からスタートした「つみたてNISA」の利用が徐々に広がっています(2020年6月末時点で、つみたてNISAの口座数は244万3,717口座)。
おさらいすると、つみたてNISAは一定の条件に合致した投資信託(ETF:上場投資信託含む)を一定額ずつ積み立てていくと、最長20年にわたって解約したときの利益や普通分配金が非課税になる制度です。2020年11月末現在、対象となる商品は191本。1年間に投資できるお金の上限は40万円です。
つみたてNISAという制度は資産形成の基本である「長期・分散・低コスト+積み立て」ができるように設計されたものです。ところが、せっかく口座を開設してつみたてNISA で投資信託の積み立てを始めたものの、短期間で解約してしまう人が意外と多いのです。

■積み立てを始めた翌年に解約する人も
金融庁「NISA 口座の利用状況調査」には興味深いデータが載っています。
つみたてNISAがスタートした2018年には639億6,579万円の指定インデックス投信が積み立てで購入されました。ところが、2018年に購入された指定インデックス投信のうち、翌2019年には111億1,894万円が解約されています。これは購入された金額の約17%にあたります。アクティブ投信の場合はどうでしょうか。2018年に買い付けられたのは175億6,049万円、翌年の解約は35億2,599万円です(買付額に対して約20%)。
実際には買付・解約ともに時価評価額であり、値上がりしていると解約額はふえる(値下がりしていると減る)ため、正確な解約比率はわかりません。ただ、非課税期間20年という長期投資を促す制度にもかかわらず、1年程度で解約してしまう人が予想以上に多いのは事実です。
2019年は世界的に株価が上昇し、”利益確定”のため投資信託を解約したくなる市場環境も影響していたと思われます。ただ、つみたてNISAの口座開設者は20歳代から40歳代で68.1%を占めています。解約して使う予定があるならよいのですが、そうでないなら、もう少し長い時間軸で積み立て投資を考えたいものです。

資産形成では、投資信託をできるだけ長く保有し、頻繁に売買しないことが大切です。けれど、投資を続けていると、順調なことばかりではありません。株式市場が好調な時期もあれば、時には暴落するような場面もあります。少し値上がりしたからといって解約(利益確定)したり、値下がりしたため怖くなって解約してしまったりを繰り返していては、長期的な資産形成はできません。ところが、現実にはこれがなかなか難しいようです。では、どうしたらよいでしょうか。

■時間を味方につけよう!
(1)ルール化する
感情が先に立つと、保有する投信の価格が下がると怖くなってしまいます。きちんとルールを決めて、それを淡々と実行するのがいちばんです。例えば、自分なりの「投資方針書」を作成しておき、不安になったときにはそれを読み返すと効果があります。これは米国の著名な投資家であるチャールズ・エリス氏や投資教育家の岡本和久氏などもすすめている方法です。
投資方針書というと何やら難しそうですが、要は「自分がどういう方針で運用するか」をまとめておくもの。例えば、次のような内容を決めておくとよいでしょう。

<投資方針書の例>
〇目的:リタイアまでに老後のお金をつくる
〇運用期間:60歳までは積極運用、その後は株式の比率を下げる
〇運用方法:投資信託の積み立て(「iDeCo」や「つみたてNISA」を優先的に利用する)
〇配分:リスク資産と無リスク資産(預金)が半々になるようにする
〇商品:積み立てるのは日本株と日本を除く世界株のインデックスファンド
それとは別に個人向け国債を保有する
〇チェック方法:年に一度、年末に「配分」と「時価評価額」をチェックする
〇その他:万一に備えるお金として、生活費の半年分は預金においておく
 
これはあくまでも一例なので、自分のまとめやすい方法で書いておきましょう。投資をはじめてから、必要な項目を付け加えたり、見直したりしても構いません。結婚を機に、再度投資方針書を練り直したという投資家さんもいます。

(2)仲間をつくる
コロナ禍ではリアルの場で集まるのは難しいですが、仲間と情報交換できる場があるとよいかもしれません。学生時代の友人や、会社の同僚でそうしたお話ができる人をみつけられるとよいですね。今はオンラインが中心だと思いますが、対面の研修(企業型DCの継続研修など)などが復活したら、そうした仲間を探してみてください。意外と身近なところにいるかもしれません。

■市場に居続けること
ちなみに、前述のチャールズ・エリス氏の著書『敗者のゲーム』には次のようなデータが載っています。S&P500指数のデータをみると、1982年から2000年の18年間のうち最も上がった上位30日を逃すだけで、リターンは年収益率11.5%から5.5%へと半減してしまうというのです。例えば、S&P500指数に連動する投信を保有していても、6570日(18年)のうち、30日保有していなかっただけで、リターンが半減してしまうというわけです。
エリス氏は株価がグンと上がるような状況を「稲妻の輝く瞬間」といっています。リターンをあげるにはその稲妻が輝く瞬間に株式市場に居続ける(=Stay in the market)ことが大事ですが、「相場がいつ急騰するか事前にはわからない。大切なのは市場に居続けること」 とエリス氏は助言しています。
「株は安い時に買って高い時に売ればいい」と言う人もいますが、言うは易く、実行はむずかしいもの。タイミングをみたり、予想して売ったり買ったりするのではなく、淡々と積み立てる、そして、持ち続けること(市場に居続ける)がとても大切なのです。皆さんに考えていただきたいのはタイミングではなく、タイム。時間を味方につけて、お金が必要になるときまで長期で資産を積み上げていくことなのです。
竹川 美奈子(たけかわ みなこ)
ファイナンシャル・ジャーナリスト
LIFE MAP,LLC代表
公開日: 2020年12月31日 10:00