全員

年金受給者も確定申告をすべき3つの理由

今年も確定申告の季節となりました。確定申告は自営業・フリーランスの方にとっては毎年恒例の行事ですが、会社員・公務員・団体職員等の給与所得者は、源泉徴収および年末調整によって納税手続きがほぼ完結するため、確定申告される方はごく少数です。しかし、そんな給与所得者も、定年退職して年金受給者になると、確定申告とは無縁ではいられません。年金等収入(遺族・障害給付を除く)は給与と同様に源泉徴収されるものの、年末調整のような仕組みが無いため、確定申告により税金の過不足を精算する必要があります。

一方で、年金受給者には「公的年金等に係る確定申告不要制度」が適用されます。これは、年金受給者の確定申告手続に伴う負担を減らす観点から、(1)公的年金等の収入金額の合計額が400万円以下であり、かつ、(2)公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下、に該当する場合は確定申告を不要とする措置で、2011年より実施されています。これにより、2010年には800万人だった雑所得の確定申告者数は、翌2011年には652万人にまで急減しました(出所:国税庁『国税庁統計年報』『申告所得税標本調査』各年版)。雑所得には公的年金等以外のもの(個人年金保険からの年金収入、原稿料、講演料など)も含まれるため、減少要因の全てが確定申告不要制度によるものとは限りませんが、その影響の大きさは無視できません。

ところで、確定申告不要制度の対象となる年金受給者は、本当に確定申告をしない方が良いのでしょうか。筆者は、年金受給者であっても確定申告をすべきだと考えます。理由は3つあります。


■理由その1:源泉徴収される金額はあくまで概算
源泉徴収では、給与・年金等の支払者(企業・年金基金など)が税額を概算して税務署に納付しますが、源泉徴収される税額(源泉徴収税額)の計算方法は、各種年金制度の種類によって異なります。
例えば個人年金保険では、年金額から必要経費(払込保険料累計額)を控除した所得金額の10.21%相当額が源泉徴収されますが、所得金額が25万円未満の場合は源泉徴収されません。
また、企業年金(確定給付企業年金・企業型確定拠出年金など)では、年金額の多寡にかかわらず、年金額の7.6575%相当額が一律で源泉徴収されます。これは、当該年金受給者に適用される所得税率が5%だった場合、本来負担すべき税額よりも高い金額が源泉徴収されていることを意味します。よって、企業年金の受給者は、確定申告により所得税が還付される確率が高いといえます。

■理由その2:所得控除が完全に反映されていない
所得税とは、その名の通り所得(=収入-必要経費)に対して課されるのが原則ですが、わが国では、所得からさらに「所得控除」を差し引いた課税所得に対して税率が適用されます。所得控除は全部で15種類ありますが、年金からの源泉徴収は、これらの所得控除の全てを反映していないため、本来負担すべき税額よりも高い金額が源泉徴収されている可能性があります。
例えば公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金など)では、前年までに「公的年金等の受給者の扶養親族等申告書」を提出することで、基礎控除、配偶者控除および扶養控除等の人的控除の一部が反映されるものの、生命保険料控除や小規模企業共済等掛金控除等の物的控除は反映されません。また、企業年金や個人年金保険では、所得控除の状況は一切反映されません。なお、給与所得に係る年末調整でも、雑損控除、医療費控除および寄附金控除は反映されないため、これらの控除を利用する場合は確定申告を別途行う必要があります。
いずれにせよ、所得控除を利用することで課税所得が小さくなり、本来負担すべき税額が源泉徴収された税額よりも低くなる場合は、確定申告を行うと税金の還付が受けられます。なお、2019年の雑所得の確定申告者数573万人のうち、還付申告をした者は473万人と全体の75%を占めており、年金受給者の確定申告はその大半が税金の還付を目的としている様子がうかがえます。

■理由その3:住民税の申告はどのみち必要
前述の「公的年金等に係る確定申告不要制度」は、あくまで所得税および復興特別所得税に関するものであり、住民税の申告まで免除されるものではありません。ただし、確定申告を行った場合は、税務署から地方公共団体に確定申告書等がデータ送信されるので、改めて住民税の申告書を提出する必要はありません。

以上3つの理由から、筆者は、確定申告不要制度の対象となる年金受給者であっても、確定申告される方がメリットは大きいと考えます。「確定申告は難しい」というイメージがあるかもしれませんが、税務署に相談すれば作成を手伝ってくれますし、近年はインターネットでも申告書の作成および申告が可能です。いずれにせよ、年金受給者だからといって確定申告を行わずにいると、本来還付されるはずの税金が戻ってこないという「深刻」な事態に陥りかねません。
谷内 陽一(たにうち よういち)
社会保険労務士
証券アナリスト(CMA)
1級DCプランナー、DCアドバイザー
 
公開日: 2021年02月04日 10:00