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患者数は約9割減! 2020年度先進医療の実績を見る

昨今の医療保険やがん保険に必ずといってよいほど付帯されている「先進医療特約」ですが、注意点は、対象となる先進医療の医療技術が随時変わってしまうこと。そのため、定期的にその内容をキャッチアップしておく必要があります。そこで、今回は最新の先進医療の実績報告をご紹介したいと思います。2020年度分は、12月3日にオンラインにて開催されました。

■2020年度先進医療の患者数は9割減!その原因は?
公表されている資料によると、過去5年間では、2020年6月30日時点で実施されていた技術数は83種類(2021年1月1日現在で81種類)となっており、5年前の同時期の100種類に比べて、徐々に絞られてきた感はあります。
しかし、ここ最近、実施医療機関数や患者数、医療費の金額など、いずれも右肩上がりに増えていたのが、今回はかなりの激減となりました。全患者数は、過去最高だった2019年度(39,178人)と比較すると、2020年度(5,459人)で、なんと約86%減少。先進医療費の総額も約298億円から約62億円と約80%マイナスという結果です。

その理由は、2020年4月から、「多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術」が先進医療から外れ、保険外併用療養費の一つである選定療養に変更になったことです。
これについて詳しくは、2020年1月9日付の「先進医療から「多焦点眼内レンズでの水晶体再建術」が適用除外へ」で解説しましたので、こちらをご参照ください。
https://fpi-j.tv/announce/161

同技術は、2019年度実績ベースで、年間実施件数33,868件、実施医療機関数883と、ほかの先進医療と比べてケタ違いでした。これまでは、先進医療部分の技術料678,497円(2019年度実績ベース。医療機関によって異なるがおおむね50~70万円程度)は、全額自己負担となりますが、加入済の医療保険等に先進医療特約を付帯していれば、保険でまかなわれます。さらに、入院や手術に対する保障も付帯されている場合、上乗せして受け取れます。

それが、2020年4月以降、先進医療から外れたことで、先進医療特約は適用外。給付が受けられるのは入院や手術給付金のみ(ちなみに、平均入院期間は1.1日)。
ただし、費用自体は多焦点眼内レンズに関わる部分のみが保険適用外となりますので、先進医療だったときと比べて、半額くらいには軽減できたはずです。長引くコロナ禍にあって、病院に行くのを躊躇して、治療や検査を中断あるいは変更する患者さんが増えている中で、先進医療も減るだろうなあ、とは思っていましたが、先進医療における同技術の割合がいかに多かったかを再認識しました。

■2020年度先進医療Aの上位は、粒子線治療と検査が占める
さて、そこで2020年度の先進医療Aのランキング上位は、次の通りです。参考までに、2019年度のランキングも掲載しておきます。2020年度は1位が抜けて、おおむね粒子線治療と検査法が占める形です。

<2019年度分>
・1位…多焦点眼内レンズを用いた水晶体再建術
・2位…陽子線治療
・3位…MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく前立線針生検法
・4位…重粒子線治療

<2020年度分>年間実施件数/1件あたりの費用/実施医療機関数
・1位…陽子線治療 1,196件/約271万円/16施設
・2位…MRI撮影及び超音波検査融合画像に基づく前立線針生検法 1,114件/約11万円/18施設
・3位…重粒子線治療 703件/約312万円/6施設
・4位…ウイルスに起因する難治船の眼感染疾患に対する迅速診断(PCR法) 483件/約2.8万円/16施設

*出所:厚生労働省「令和2年度先進医療技術の実績報告等について」/2020年6月30日時点における先進医療Aに係る費用(2020年度実績報告(2019年7月1日~2020年6月30日))
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000701983.pdf

■2016年4月からスタートした患者申出療養の実績は?
そして、もう1つご紹介したいのはがんゲノム医療の状況です。最近、がん保険の抗がん剤治療特約について、保険適用外の抗がん剤治療(分子標的薬も含む)を対象にしたものが増えてきました。さらに、先進医療だけでなく、患者申出療養を対象に含まれるものも登場しています。
それに関係が深い、がん遺伝子パネル検査は、先進医療から2019年6月に2つの検査法が保険収載され、がんゲノム医療が保険診療で受けられるようになっています。
ただ、これらはあくまでも検査ですので、これを受けた後、適合する分子標的治療薬が見つかれば、治療に進むことになるのですが、その治療薬が保険適用とは限りません。その場合、前述の自由診療も保障する抗がん剤治療特約を付帯していれば、給付が受けられるというわけです。
ただ、現状としてはそのような患者さんは少ないでしょう。実際には、医師主導の治験などで実施できれば、患者さんの負担は軽減できますが、全額患者負担の自由診療の可能性もあり、経済的負担が過大であることが問題視されていました。

そこで、その受け皿として、2019年10月から、国立がん研究センターでは、がん遺伝子パネル検査後に患者申出療養のもと既承認薬を適応外使用し、その治療効果を検討する臨床研究をスタートしています。さらに、ここで、前述の患者申出療養も保障するタイプを付帯していれば、給付対象となりますが、現在のところ、ほぼそのような患者さんはいません。

■そこで、どれくらいの患者さんが患者申出療養を利用しているか。
今年1月下旬に開催された患者申出療養評価会議の資料によると、「マルチプレックス遺伝子パネル検査による遺伝子プロファイリングに基づく分子標的治療(根治切除が不可能な進行固形がん)」(2019年10月1日)について、2020年度の実施件数は20件。1件あたりの費用は403,266円でした。
なお、患者申出療養の技術数は、8種類(2020年7月21日現在)。患者からの相談事例の現状については、特定機能病院等への患者からの相談件数145件(2016年4月から2020年12月末まで)に対して、患者申出療養として実施した分が10件と、患者を起点として、高度な先進医療を身近にする目的で設けられた患者申出療養ですが、まだまだ制度自体に対するハードルは高いようです。

筆者も、検査を受けた後、自由診療で分子標的治療薬の治療を行っている患者さんのご相談を受けたことがありますが、月100万円以上かかります。
その方も、患者申出療養の利用は検討しましたが、実施している病院がまだ少なく遠方だったため(2020年度の実績で医療機関数は5施設)、かかりつけ病院での治療を選んだとのことです。
起こりうる可能性は低いけれども、起きた場合の経済的損失が大きい。まさに、保険で対応すべきリスクだということを痛感しています。

<参考>
第93回先進医療会議(2020年12月3日(木))
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000205617_00026.html
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000701983.pdf

第25回患者申出療養評価会議(2021年1月21日(木))
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000203222_00012.html
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000724041.pdf
黒田 尚子(くろだ なおこ)
CFP®認定者
1級ファイナンシャルプランニング技能士消費生活専門相談員資格
消費生活専門相談員資格
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
 
公開日: 2021年02月18日 10:00