全員

就業不能補償は必要か

ひと昔前までは「自営業者向けの補償」と考えられていた就業不能補償ですが、昨今は会社員等にも加入者が増えています。自営業者に比べ、公的保障(社会保障)が手厚い会社員等の場合でも、備えるべきリスクなのでしょうか。

(1) 公的保障の給付
会社員等の公的保障が手厚いと考えられる最大の理由は、健康保険から給付される傷病手当金の存在でしょう。傷病手当金は、私傷病で仕事に就けず給与が支払われない状態が続いた場合に、標準報酬日額の2/3を最長1年6ヶ月間受け取れる健康保険による制度です。自営業者が加入する国民健康保険には存在しない制度です。
しかし、ざっくりと「給与が2/3になった生活」を想像してみて、生活にまったく支障がないイメージが湧くという人は、そう多くはないでしょう。

(2) 企業内保障の確認
そこで、加入する健康保険から、独自給付がある場合もあります。代表的なものが傷病手当付加金で、(1)公的保障に上乗せしてプラスアルファを給付する制度です。傷病手当金の給付は標準報酬日額の2/3(およそ67%)ですが、これを80%や85%まで引き上げてくれます。
また、給付期間を延長してくれる延長傷病手当金もあります。1年6ヶ月で傷病手当金の給付が終了しても、引き続き6ヶ月から1年半給付を継続してくれる制度です。
企業内保障にこのような上乗せ給付があれば、就業不能へのリスクは和らぎます。

(3) 公的保障や企業内保障がもらえない場合
とはいえ、(1)公的保障や(2)企業内保障も万全ではありません。例えば、繰り返し同じ私傷病を患い、就業不能となった場合などです。
一度復職はしたものの、同じ傷病で再度休職した場合、支給日から1年6ヶ月の間であれば、再び(1)傷病手当金を受け取ることができます。(2)企業内保障も(1)公的保障の傷病手当金の給付を前提とするものが多いことから、こちらも給付を受けられると考えられます。
しかし、1年6ヶ月を超えて再び同じ私傷病で休職した場合には、「社会的治癒」が前提となります。
「社会的治癒」とは、同じ傷病が生じたとしても、それまでに労働を含む社会生活を行うのに問題なく過ごせていた期間が一定以上あれば治癒したと見なすことをいいます。つまり、再発した後の症状はもう別の傷病だとする考え方です。
職場復帰も含め、どの程度の期間が経過すれば「社会的治癒」と見なされるかは、傷病の種類などにより変わるため明確に示されていません。一般には5年ともいわれますが、特に精神疾患等の場合は病状に波があることから、極端に短い期間で認められる例はありません。

(4) 就業不能補償は必要か
「社会的治癒」は、医学的な治癒とは異なる社会保険独自の考え方で、厚生労働省は「被保険者(請求者)を救済する趣旨で考案されたもの」としています。医学的には治癒していない(同じ傷病である)ことを前提としているので、治療にあたっていたお医者さんは前後の傷病を切り離しては考えないでしょう。しかし、社会的治癒を認めるかどうかの判断は、主治医ではなく保険者(健康保険組合など)が行います。前の傷病を初診日とすれば給付を受けられない場合でも、後の傷病を初診日とすれば給付されるため、「被保険者の救済」であることは間違いありません。

裏返すと、治療や再発が長期間に渡った場合などで、その間に「社会的治癒」が認められない場合は、(1)公的保障も(2)企業内保障も給付を受けられないケースはあるでしょう。(2)企業内保障として手厚い延長傷病手当金があれば救われるケースもありますが、そうでない場合は自力で就業不能に備えなければなりません。
また、そもそもの話として、(1)公的保障しか給付されないケース(企業内保障がない)で、給与が2/3になったら生活に支障をきたすと感じるならば、死亡保障や医療保障と同様に、就業不能補償についても検討する必要は高いといえるでしょう。
関口 輝(せきぐち あきら)
AFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野® 事務局長

 
公開日: 2021年02月25日 10:00