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相続に必要な被相続人の戸籍謄本
1.戦後、戸籍は2回変わっている
戦後すぐに新戸籍法が施行され、昭和32(1957)年頃から、戸籍が変わりました。それまでの「家単位の戸籍」から「夫婦と子どもを単位とした戸籍」になりました。ですから古い戸籍を見ると、戸籍筆頭者のおじいちゃんの戸籍に、配偶者であるおばあちゃん、子どもたちとその配偶者、孫までたくさんの人が掲載されています。戸籍を分割するまでは、赤ちゃんが生まれて出生届を出すと、その戸籍に登録されていたのです。
新戸籍になってからは、婚姻関係にある夫婦とその子のみが、同じ戸籍に登録されます。子が結婚すると、新たに戸籍を作ることになりますので、「親と子の配偶者」「祖父母と孫」は、原則として同じ戸籍には入りません。
さらに、平成6(1994)年の戸籍法改正により戸籍謄本がコンピュータ管理となり、徐々に手書きから印字されたものに代わっていきました。
なお、戸籍の内容を表している記録を、「戸籍謄本(本人の情報だけなら戸籍抄本)」、コンピュータ化後は、「戸籍全部事項証明書(戸籍一部事項証明書)」といいます。また、新戸籍法制定前や戸籍法改正前の戸籍謄本を、「改正原戸籍謄本」といいます。これらの総称として、このコラムでは「戸籍謄本類」とします。また、相続手続きで必要なのは戸籍抄本(戸籍一部事項証明書)ではなく、戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)です。
<戸籍謄本の種類(戸籍謄本類)>
・戸籍謄本(戸籍事項証明書) …婚姻と親子関係等の記録・証明書
・改正原戸籍謄本 …戸籍法の制定や改正前の戸籍謄本
・除籍謄本 …その戸籍に在籍している人が誰もいなくなった戸籍謄本
2.相続手続きで必要となる戸籍謄本類
相続手続きでは、相続人が親や子の場合、亡くなった人(被相続人)が生まれたときからの連続した戸籍謄本類が必要となります。「亡くなった人の親子関係」を確認するためです。
親や子がいないか亡くなっている場合には、祖父母や兄弟姉妹が相続人になりますが、その場合には親が生まれたときからの戸籍謄本類が必要になります。「亡くなった人の親の親子関係」を調べるためです。
このような事情から、数多くの戸籍謄本を集めなければならない場合もあるのです。これらをすべてそろえるのは大変な作業です。戸籍を他の自治体に移していれば、複数の市町村役場から、謄本を取り寄せなければなりません。
3.昭和25年生まれのKさん(子あり)の事例
昭和25年生まれのKさんの事例で考えてみましょう。
(1)まず、Kさんが生まれて出生届を出すと、親の戸籍があるA市で記録されます。
(2)その後昭和32年頃に新戸籍法による新しい戸籍が作成されています。
(3)Kさんが結婚してA市に結婚届を出して、夫婦の新戸籍を作成しました。
(婚姻時に別の自治体で戸籍を作成することも可能です)
(4)その後、転居に伴って、戸籍をB市に移しました(転籍)。
子が生まれ、B市で子の出生届を出しました。
(5)コンピュータ化によりB市で新戸籍が作成されました。
(6)Kさんが死亡し、B市に死亡届を出しました。
Kさんの相続手続きで必要となる戸籍は、5種類です。
A市で(1)~(3)の3種類の戸籍謄本(改正原戸籍謄本、除籍謄本を含む)、B市で(4)~(5)の2種類の戸籍謄本を取得します((5)は戸籍全部事項証明書。死亡したことの記載があるものが必要)。
戸籍謄本類は、たとえ本人のものであっても正式な住所(戸籍に書いてある住所)がわからないと取得できません。ですから、まず最後に戸籍を置いていた市町村役場で、相続のためと理由を書いて必要な戸籍謄本類を取ります。別の自治体から戸籍を移しているのなら、戸籍謄本類に「どこから戸籍を移しているか」が書いてありますので、転籍前の自治体で戸籍を取る、という手続きを繰り返します。引っ越しのたび戸籍を異動している人は、あちこちの市区町村役場で手続きしなければならず、たいへんな作業になる場合もあります。
遺された人の相続手続きの負担を軽減するには、自分の相続の際に必要となる戸籍謄本類をそろえておきましょう。あらかじめ取得しておくと、相続を含めた死後の手続きがグンと楽になります。最新の謄本以外(前述の(1)~(4))には、通常、有効期限が適用されないため、実際の相続手続きで使用できるので、無駄にはなりません。
山田 静江(やまだ しずえ)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野® 研究員
日本FP協会埼玉支部 副支部長