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明日は我が身?老後貧乏を招いたお金の知識不足

勤めていた山一証券が破綻し、FPとして活動し始めて24年目になりました。これまで多くのお客さまの相談を受けてきましたが、そのなかでも強烈に印象に残っているのが、数年前に相談を受けた70代のご夫婦です。お金の知識の大切さを痛感させられたケースだったので、少し紹介させてください。

季節は夏を過ぎ、秋の気配が色濃くなってきたころでした。
少し疲れた感じの顔をされたご夫婦。服装も着古されたもののように見えました。

ご主人が小さな声でつぶやくように発した言葉は、
「お金がないんです・・・。孫におもちゃも買ってあげられません・・・」
というものでした。隣にいた奥様も、とても悲しそうな表情をされていました。

現在の家計の状況を確認しながら、これまでの暮らしについても聞いていきました。
すると、けっして浪費家だったわけではない、いたって普通のご家庭であることがわかったのです。

ご主人は高校卒業後に就職し、ある大手企業の工場で働き始めました。奥様も同じ工場で働いていたそうです。20代後半に結婚し、2人の子どもにも恵まれ、30代半ばにはマイホームを購入。住宅ローンの返済と教育費の支払いなどを、夫婦共働きで頑張ってこられたそうです。

子どもたちが巣立っていき、60歳でリタイア。退職金は出ましたが、35年返済で組んでいた住宅ローンの残高のほうが多かったそうです。駅前の駐輪場でのアルバイトと年金収入とで、なんとか65歳には住宅ローンを完済できましたが、貯金も底をついてしまったそうです。

幸い、住む家もあって年金もあるので、生活はできていますが、ギリギリの状態。子どもたちにも心配をかけてしまっていて、申し訳ない気持ちでいっぱいだそうです。

私は、話を聞いて、やりきれない気持ちと悔しい気持ちでいっぱいになりました。

このご夫婦は、すごく頑張って生きてきたんです。無駄遣いをしてお金がなくなったわけではないのです。それでも老後貧乏ともいえるような状態に陥ってしまった。

原因は、ライフプランニングやお金の知識不足です。
せめて15年前に相談に来てくれていれば、住宅ローンの見直しや保険の見直し、退職までの貯蓄・運用計画などの策定によって、いまのような事態は十分に避けられたはずです。
20年以上、お金の知識の大切さを啓蒙してきたつもりですが、まだまだ全く足りていないことを痛感させられました。

このご夫婦は、けっしてレアケースではありません。
厚生労働省が行っている「2019年国民生活基礎調査」によると、高齢者世帯の14.3%が「貯蓄がない」と回答しています。
また、金融広報中央委員会が調査している「家計の金融行動に関する世論調査(2020年)」でも、2人以上の世帯で「金融資産を保有していない」と回答した世帯が16.1%で、このうち、預貯金さえも全く保有していない世帯が1.5%(2019年は2.5%)だったようです。

つまり、年齢に関係なく、2%前後の世帯は預貯金さえも全くない状態で、高齢者世帯になると、1割強の世帯が「貯蓄がない」状態に陥っていると考えられそうです。

このFPコラムを読んでいる皆さんは、お金の知識が重要なことをよくわかっていて、自ら実践できている方々だと思われますが、残念ながら一般の人たちの多くは、お金の知識を学ぶモチベーションがあまり高くないようです。資産運用の必要性も、あまり感じていないように見受けられます。

そのような方々ほど、前述のような老後貧乏に陥ってしまう可能性があるのです。ぜひとも皆さんには、ご家族やお知り合い、同僚、後輩などに、このことを伝えてほしいと思います。

ようやく、中学校、高校でもお金の知識を教えていくような動きも出始めていますが、まずは大人が学ぶ必要があります。お金の知識を勉強することは、家族などの大切な人を守ることにつながります。幸せに生きていくためにも学び続けてほしいと思います。私も、FPとして、今後もお役に立てる情報を発信し続けていきたいと思っています。
菱田 雅生(ひしだ まさお)
CFP®認定者
1級FP技能士
1級DCプランナー、
住宅ローンアドバイザー
確定拠出年金教育協会 研究員
アクティブ・ブレイン・セミナー マスター講師


 
公開日: 2021年04月29日 10:00