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まだまだハードルが高い?若年層の地方移住
■移住できる仕事だから移住する
大都市圏で働く人たちの中には、地方に住んでゆったりと生活しながら今の仕事を続けたいと思う人も多いようですが、会社に出勤するという働き方では実現は難しく、だからこそ「老後はのんびり田舎暮らし」だったのでしょう。しかし、新型コロナウイルスの影響によりテレワークを余儀なくされたことや、SNS、ZoomやTeamsのようなオンライン会議ツールの普及により、一部の勤労者は大都市圏に住む理由を失いつつあります。
地方公共団体も移住に関するポータルサイトで情報を提供しています。サイトでは、高齢者ではなく子育てや仕事、仲間とのコミュニケーションをイメージする写真が多用されていることからも、若年層の移住を意識していることが分かります。
実際に移住を考えている30代の方に話を聞くと、仕事で週に1度は都内に戻るので、新幹線で約1時間の静岡県三島市は便利だと話していました。また、都内に戸建て住宅を買うなら都心から離れたエリアに5,000万円ほどの物件を買うしかなく、地方に3,000万円程度で戸建て住宅を新築して新幹線代を支払ったほうが安く、職場までの移動も楽だということです。
■移住における住宅取得
支援制度も若年層を対象にしたものが多く、たとえば、静岡県三島市は県外から住宅を取得し転入をした、40歳や46歳未満の一定条件を満たす若い夫婦等に100万円の補助金を給付しています。
また、住宅金融支援機構の【フラット35】でも、地方移住支援を目的に地域連携型として地方公共団体から移住支援金の交付決定通知が発行される場合に限り、貸付金利を当初5年間0.25%引き下げる制度を創設しています。【フラット35】Sとの併用も可能なため、2021年5月の最低金利を引用すれば、当初5年間は0.86%、次の5年間は1.11%、残りの25年間は1.36%の固定金利が実現します。
大都市圏にいながら地方に住宅を建築し、工事が終わると共に移住する人も増えており、地方の住宅会社は積極的に大都市圏に向けて情報発信しています。かつては地域密着型サービスの代表ともいえる住宅会社や工務店は、いまや遠く離れた方の住宅建築を請負うため、打ち合わせから現場監理報告などのオンライン化を急いでいます。
■移住が目的であり、移住先で仕事を探す
ポータルサイトでは仕事についても積極的に情報発信しています。制度も充実していて、長野県は県内61市町村において、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府から県内に移住し、県が開設・運営するマッチングサイトに掲載する求人に応募して採用された方に、移住支援金(最大100万円)を支給する制度を実施しています。
■育児や子どもの教育についても心配
お子様のいる世帯における移住の心配事といえば育児や教育です。大都市圏と違い待機児童の問題は無くても、知人のいない地域での子育ては不安です。山梨県のポータルサイトでは、子育て世代が安心できる情報を発信しており、小・中学校、高校の情報も公開しています。
また山梨県は2016年4月より「やまなし子育て応援事業」として、子育て世帯の経済的負担の軽減と、仕事と子育ての両立支援を目的に、国の助成対象とならない年収約640万円未満の世帯について、第2子以降3歳未満児の保育料を市町村との連携により無料化しています。
■本当に移住が進んでいるのか
総務省が発表する移住相談に関する調査結果によると、各都道府県及び市町村の移住相談窓口等において受け付けた相談件数は、2015年には14.2万件だったものが、年々増え続け2019年には31.5万件になっています。そのうちどれだけの人が実際に移住したのかは定かではありませんが、三島市の県外から住宅取得をする者に対する補助金をみると、2021年度の予算枠2,200万円が2021年5月19日現在で残り180万円ですから、ある程度の実践があるようにも見えます。
移住の実現には、住まい、仕事、子育てのほか、家族の同意など、超えるべきハードルがいくつもありますが、それらを解決すべき制度もまたたくさんあります。地方移住が相談に留まらず、多くの方の希望が実現することを願います。
市川 貴博(いちかわ たかひろ)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野® 主任研究員
日本FP協会静岡支部 幹事