全員
住宅ローン、新規も借り換えも変動金利が主流に?
背景としては、フラット35の適用金利がここ3年ほど大きな動きがなく、安定的に年1.3%前後(借入期間21年以上35年以下、融資率9割以下、新機構団信付きの場合)で推移している一方で、変動金利型の適用金利が少しずつ下がってきている点が挙げられるでしょう。2021年6月現在、変動金利型で最も低いのは、年0.38%といった水準です。フラット35と比べると3分の1の金利水準です。
仮に、3,000万円を30年返済で組んだとして返済額を計算すると、以下のようになります。
(1) 年0.38%
毎月返済額88,186円、うち1回目利息9,500円、うち1回目元金部分78,686円
(2) 年1.35%
毎月返済額101,390円、うち1回目利息33,750円、うち1回目元金部分67,640円
返済額の違いは1万円ちょっとですが、1回目の利息部分が2万5,000円近くも違います。適用金利が3.5倍も違うのですから当然です。
さらに、変動金利型の利用者は、新規の住宅ローンだけでなく、借り換えの場合でも増加しています。住宅金融支援機構が行っている「住宅ローン借換えの実態調査」(2019年度)を見ると、金利タイプの利用割合は以下のようになっています。
借り換え前 借り換え後
変動金利型 42.8% → 49.2%
固定期間選択型 41.9% → 40.5%
全期間固定型 15.3% → 10.3%
変動金利型の借り換え後の割合が増えているということは、他の金利タイプから変動金利に借り換えた人が増加しているのでしょう。おそらく、固定から変動に借り換えることによる返済負担の大幅減に魅力を感じる人が増えているのかもしれません。
しかし、金利変動リスクを考えれば全期間固定金利型が最も安全です。住宅ローンを組んだ段階で返済計画が確定し、その後、世の中の金利がどのように変化しようとも、気にする必要がないからです。
筆者も20年以上前から、住宅ローンを組むのであれば、損得よりも安全性を最重要視し、全期間固定金利型で組むべきだとアドバイスしてきました。現在も、基本的な考えは変わっていません。10年後20年後の金利水準がどうなっているかは誰にもわからないので、会社員や公務員などのように収入が比較的安定している人、言い換えれば、収入の急上昇が期待できない人ほど、まずは安全性を重視して全期間固定金利型にしておいたほうが無難だと思います。
いくら表面的な金利が低いとはいえ、変動金利型は半年ごとに金利が見直されていくのが通常です。将来、金利がどんどん上がるような時代が来たとしたら、それに伴って適用金利も上昇し、返済負担は重くなっていくことでしょう。
ただ、近年の日本の経済情勢を見る限り、ここ1、2年の間に国内金利が急上昇する可能性はかなり低いと予想できます。日本銀行が利上げを実施する状況になるとしたら、きっと、そのときには、新型コロナも収束し、日経平均株価は3万円を超えて上昇傾向、そして、物価も安定的に年2%の上昇を記録していることでしょう。まさに、「令和バブル」と呼ばれるような状況が起きたときに、日本銀行は利上げに踏み切るのではないかと思われます。
もちろん、これはあくまでも個人的な予想です。当たらないかもしれません。しかし、そのくらいの状況にならないと日本銀行が現在の政策を転換することはないでしょう。だとすると、それまでは変動金利型でいいじゃないか、と言う人も出てくると思います。確かに、日本銀行の金融政策決定会合などを逐一チェックしたり、金利をつかさどる債券市場の動向を日々チェックしたりできる人は、ご自身の判断で選択すればよいでしょう。
また、借り換えで住宅ローンの残りの期間が20年を切るといった人や、教育資金や老後資金の貯蓄もきちんと計画的にできている人、適用金利が2%や3%に跳ね上がっても家計運営に支障をきたさないようなゆとりがある人などは、現在のような超低金利の変動金利型のメリットを獲得しに行ってもいいのかもしれません。
くれぐれも、「投資は自己責任でお願いします」というのと同じように、住宅ローンの金利タイプの選択も自己責任です。安全性を重視するなら固定金利、リスクを認識したうえで有利になる可能性を追求したいなら変動金利、と考えておくのが無難でしょう。
最後になりましたが、ここ2、3年の間に住宅ローンの借り換えを実行していない人は、借り換えの効果が得られる可能性があります。複数の金融機関等で借り換えの試算をしてみるとよいでしょう。
菱田 雅生(ひしだ まさお)
CFP®認定者
1級FP技能士
1級DCプランナー、
住宅ローンアドバイザー
確定拠出年金教育協会 研究員
アクティブ・ブレイン・セミナー マスター講師