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無料マネーセミナーの「不都合な真実」

喫茶店で保険の商談をしている場面をよく見ます。「どんな保険を提案されているのかな」と耳を澄ましてみると、大半は「外貨建て保険」を提案されています。最近は下火になりつつありますが、数年前まで「マネーセミナー」なるものが大盛況でした。参加者を女性だけに限定しているものが多くありました。内容は概ね「低金利の時代に銀行預金ではお金は殖えない。リスクをとって運用しよう!」という内容です。参加費は無料、中にはケーキやコーヒーのサービス付き。この時点で少々胡散臭さを感じますが、実態は金融商品の販売が目的です。セミナー終了後「個別相談」に誘導し、そこで外貨建て保険など、金融商品を提案するのです。広告費や会場費は保険会社から協力金が出ていることも多く、セミナー内容はおよそ公正中立ではありません。

なぜ、そこまでして外貨建て保険を販売するのでしょうか。理由は簡単で、円建てより外貨建て保険を販売した方が儲かる(保険代理店に支払われる手数料が多い)からです。外貨建て保険とは、「保険料の支払いや保険金の受け取りを円ではなく、外貨で行う保険」です。通貨は主に米ドルと豪ドルです。

外貨建てのメリットは、円建てに比べて「予定利率」が高いことです。例えば、円建て0.13%に対し、米ドル建て1.86%といった具合です。予定利率とは「保険料を算出するときに使う割引率」のことで、予定利率が高いと保険料は安く、予定利率が低いと保険料は高くなります。円建て保険もバブル当時は4~5%台が普通でしたから、相当に保険料が割り引かれていました。しかしバブルが崩壊し、予定金利は急低下。貯蓄性の高い終身保険や個人年金保険の保険料が急激に高くなってしまったため、予定利率の高い外貨建て保険に着目し、積極的に販売されるようになりました。

当然、外貨建てですから「為替リスク」が伴います。私たちは普段、米ドルや豪ドルを持ち合わせていないので、いったん円を米ドルや豪ドルにチェンジし、保険料を支払います。この時に1ドル=110円→100円→90円と「円高」が進めば、円ベースでの保険料は安くなっていきます。また1ドル=110円→120円→140円というふうに「円安」が進めば、円ベースでの保険料は高くなっていきます。さらに、死亡保険金や満期保険金、解約返戻金も外貨で支払われますから、円高が進めば受取金額は少なく、円安が進めば受取金額は多くなります。つまり、外貨建て保険におけるベストなシナリオは「保険料を払っている間は円高に推移、死亡保険金や満期保険金を受け取るときは円安に推移」です。お客様がこのシナリオを受け入れてもらえば、外貨建て保険は容易に販売できます。

そこで、保険販売員は、このシナリオになる理由を考えます。例えば次のような説明です。「今後、日本の人口は減っていくため経済規模が縮小する。それを見込んで海外の投資家は日本株式や国債等を売る動きが出てくる。円が売られやすくなるので、日本は今後、円安が進んでくだろう」。これは結果ありきのストーリーであり、保険を販売するためのトークに過ぎません。実際には、20年前(2001年6月)の為替レートは1ドル=119円台でした。現在は1ドル=110円台ですから、この20年は円安どころか、むしろ若干円高に推移しており、シナリオとは程遠い結果となっています。

一方、私たちは「将来のことなど予想できない」という現実を受け止め、歴史から学ぶことができます。1985年に「プラザ合意」という経済政策が実行され、当時1ドル=230円台だったレートが1987年には1ドル=120円台まで、一気に円高が進んだことがあります。当時、私の父は証券外務員だったのですが、当時のことをこう証言しています。「あの頃は1ドル=200円を割り込むことはありえないと誰もが信じて疑わなかった。もし割り込めば、その時はドルを買うべきだと考えていた。」世の中の常識は、ある出来事をきっかけに、突如として覆されてしまうがあります。日本バブルの崩壊、銀行や生保の相次ぐ破綻、ITバブルの崩壊、NY同時多発テロ、リーマンショック、そして今回のコロナ騒動、私達は常識の転換点を何度も目の当たりにしてきました。為替は近年1ドル=110円台で定着していますが、1ドル=50円の時代が来る、そんなことはあり得ないと誰が言いきれるでしょうか。

マネーセミナーに限らず、金融商品を販売する立場の人間の発言は、売り手にとって「都合のよい」のポジショントークの可能性もあります。それらを鵜呑みにせず、「本当にそうなのか?」と自分の頭で考え、調べる心構えが大切です。「将来は誰にも予想できない」ことを真摯に受け止め、「歴史から学ぶ姿勢」が重要なのだと思います。
中山 浩明(なかやま ひろあき)
CFPファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野® 主任研究員
公開日: 2021年07月01日 10:03