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相続の節税対策は最優先課題ではない

 かつて「相続税」は、一握りの資産家が負担する(納める)もので、一般の人には他人事でした。しかし、2015年1月から相続税の基礎控除が4割減少したことから、もはや他人事とは言っていられなくなったのです。国税庁の統計によれば、2015年に相続税の支払いが生じた件数は、2014年と比較して8割も増えたからです。このため相続税対策、正確には「節税対策」が2014年あたりから花盛りという状況が続いていますが、相続においては、節税対策を最優先に考えるのはいかがなものかと言わざるを得ません。相続対策での最優先課題は「円滑な遺産分割」。2番目が「納税資金対策」、そして3番目(最後)が「節税対策」の順番で考えるべきなのです。順を追って簡単に説明しましょう。
  相続が発生した場合、相続税の申告・納税は発生後10ヵ月以内に行う必要があります。10ヵ月は長いようで実は短いと言わざるをえません。遺言書があればほぼ問題ないのですが、ない場合が大変なのです。相続人が近隣に住んでいれば、遺産分割の話合いを都度都度行えますが、仕事の関係で地方、場合によっては海外に住んでいれば、話し合う機会は限られているのです。電話やメールなどでやり取りができますが、仕事の電話会議のように相続人全員が顔を合わせるのは難しいのです。とすると、だれかが音頭(まとめ役)を取って個々に相談することになりますが、この場合、個々のエゴがぶつかりあってまとまらないケースが多く、いたずらに時間がかかってしまうのです。さまざまな事情で揉めそうな場合、あるいは相続人毎に残したい資産が決まっている、相続人ではないがお世話になった人に資産を一部残したい(たとえば相続人の妻)等々では、遺言書を書いておくべきでしょう。
  納税資金対策が2番目なのは、相続税は「現金納付が原則」だからです。相続税がかかる場合、相続財産の中に現金や預金、株式や投資信託、生命保険(死亡保険金)などの現金同等物がどれだけあるかが鍵になります。この現金同等物の中から相続税が払えれば問題ありませんが、不足するなら、どう納税資金を確保するのか考えなければならないのです。被相続人(親)の資産の中でどうやって納税資金を作っていくのかを考え、作れそうになかったから各相続人で支払うことになるのです。各相続人が納税資金となる現金同等物を保有していれば問題ありませんが、保有していなかった場合、どう対処(準備)するのかを考える必要があるのです。各相続人が注意したいのは、数年先までのまとまった資金が必要なライフイベント用の資金を省いた、正確にはもしもの予備資金を加えた額を除いた金額で納税資金を準備できるのかを考えなければなりません。現金同等物を全てかき集めれば、何とか納税できるは御法度です。
  3番目、否、最後が「節税対策」です。現金よりも不動産で資産を保有しているほうが相続税評価額を下げられ、また借入れがあれば借入れ分は評価額から差し引くことができます。このため借金をしてアパートを建てるケースが急増していますが、借金をしてまでの節税対策は相続人に禍根を残すことが多々ありえる可能性をお忘れなく。相続税は節税できたとしても、アパート経営が上手く行かなければ相続人は、借金返済などで未曾有の苦しみを味わうことがありえるというわけです。相続は「相続税を減らすという相続時(点)だけで考えるのではなく、財産を引き継いだ相続人(子どもや孫など)が困らないように(線)考える」のが筋なのです。
深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表
 
 
公開日: 2017年06月08日 10:00