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FPのためのリスクマネジメント論(その1)リスクの定義分類構造
リスク・マネジメントや危機管理を正しく理解するためには、理論および歴史的経緯を体系的に踏まえておく必要があります。そこで、今回から数回にわたり、ファイナンシャル・プランナー(FP)の実務にも役立つリスク・マネジメント論のエッセンスを取り上げて解説します。
■そもそもリスクとは何か(定義)
リスク(risk)は、日本語では一般的に「危険」と訳されることから、何となく「怖い」「避けるべき」との印象をお持ちの方も多いのではないでしょうか。リスクの語源は、ラテン語のrischiare(リスキアーレ)あるいはイタリア語のrisicare(リジカーレ)だと言われています(諸説あり)。前者は「ごつごつした岩の間を航行する」、後者は「勇気をもって試みる」という意味です。つまり、リスクという言葉には、危険だから回避すべきという意味だけでなく挑戦するという意味も合わせ持っていることがうかがえます。
■リスクの分類
リスク・マネジメント論におけるリスクの分類はじつに多種多様ですが、最も代表的な分類として挙げられるのが、純粋リスク(pure risk)と投機的リスク(speculative risk)です。
純粋リスクとは、火災、盗難、交通事故、自然災害など、損害あるいは損失をもたらすリスク(loss only risk)のことで、回避すべきものとしての意味合いが強く含まれます。一方、投機的リスクとは、新商品の開発や投資・資産運用など、損害・損失だけでなく利得も発生するリスク(loss or gain risk)のことです。投機的リスクについては、回避することによって避けられる損害・損失および回避したら得られない利益の双方を勘案したうえで、リスクを取るか否かを判断する必要があります。
もうひとつの代表的な分類に、静態的リスク(static risk)と動態的リスク(dynamic risk)があります。静態的リスクとは、社会・経済環境の変化に左右されず常に存在するリスクのことです。例えば、転んで怪我をするリスクは、石器時代でも現代社会でも起こりうるので、静態的リスクだと言えます。
一方、動態的リスクとは、社会・経済環境の変化とともに発生または消失するリスクのことです。例えば、SNS等に投稿した不適切な文章・画像等が批判を集める「炎上」という現象は、約30年前には存在しませんでしたが、インターネット環境が発達して誰もが気軽に情報発信できるようになったが故に新たに顕在化したリスクだと言えます。
■リスクの構造
一口にリスクと言っても、その構造は、ハザード(hazard:危険要因・事情)、ぺリル(peril:事故)、ロス(loss:損害・損失)の3つに大きく分けることができます。ハザードとは事故を発生または拡大させる要因、ぺリルは損害・損失の発生原因となる事故、ロスは事故によって引き起こされた損害・損失のことです。
例えば、交通事故においては、見通しの悪い交差点、雨で滑りやすい道路やスピードの出し過ぎをハザード、車と人あるいは車同士が衝突することをぺリル、事故による負傷や車両の損壊あるいは治療費や賠償金等の出費をロスと定義することができます。また、2020年から猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、いわゆる3密(密閉・密集・密接)がハザード、感染による咳、発熱、味覚障害等がぺリル、入院・治療のための出費や隔離による経済活動の停止などをロスと定義することができます。
谷内 陽一(たにうち よういち)
社会保険労務士
証券アナリスト(CMA)
DCアドバイザー、1級DCプランナー