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2022年1月1日施行「傷病手当金の通算化取得」の経過措置

今回は、筆者が2021年5月6日に寄稿した「「傷病手当金」が通算可能に!」の続編です。
詳細は、上記コラムをご参照いただくとして、前回ご紹介したのは、来年1月1日以降、傷病手当金の支給期間が通算できるようになるという改正内容でした。
これまでは暦上、支給開始から1年6ヶ月を経過してしまうと、実際の受給日数には関係なく、それで支給が打ち切りになってしまいます。それが、改正後は、最長1年6ヶ月の支給期間中ずっと給料の約2/3が受け取れるわけですから、病気やケガで休業を余儀なくされている患者さんやご家族にとって、非常に使い勝手がよくなる改正です。そして、筆者のような医療現場で相談業務に従事しているFPが気になっていたのは、施行前すでに受給を開始している方の取り扱いでした。

結論としては、来年1月1日時点で傷病手当金の受給権がある方、つまり2020年7月2日以降に傷病手当金を受給開始した方については、出勤等によって不支給となった期間がある場合、その期間を延長して取得が可能になります。

この経過措置に関しては、法律案でも明記されています(以下、法律案より抜粋。太字は筆者によるもの)。

(健康保険法の一部改正に伴う経過措置)
2第一条の規定による改正後の健康保険法第九十九条第四項の規定は、施行日の前日において、支給を始めた日から起算して一年六月を経過していない傷病手当金について適用し、施行日前に第一条の規定による改正前の健康保険法第九十九条第四項に規定する支給期間が満了した傷病手当金については、なお従前の例による。

*出典:厚生労働省「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案(令和3年2月5日提出)」
https://www.mhlw.go.jp/content/000733603.pdf

さらに第204回国会でも、厚生労働省保険局長の浜谷氏が政府参考人として、経過措置に関する答弁しています(以下、議事より抜粋。下線は筆者によるもの)

〇桝谷議員
<前略>例えば、傷病手当金の支給期間の通算化でありますが、精神疾患の方々などは、やはり、仕事と療養の両立の観点から、非常にこの制度、改正を期待をされておられます。この法律が通りますと一月一日から施行でありますが、現に今、この傷病手当金の期間になっている、受給を受けておられる方々もあるわけで、来年の一月一日時点で、例えば今年八月から九月ぐらいから傷病手当金の対象になった、一年六か月の範囲内で、働く期間があって不支給になっている、そういう方々は一月一日以降どういう扱いになるのか、是非通算期間に入れてもらいたい、こういう御要請もありますが、お答えをいただきたいと思います。

〇浜谷政府参考人
お答えいたします。今回の改正法案では、治療と仕事の両立の観点から、出勤に伴い不支給となった期間を延長して支給を受けられるように、傷病手当金を通算して一年六か月に達するまで支給することとしております。
それで、御指摘の、いわゆる今受給されている方の扱いでございますけれども、本改正の施行日は来年一月一日としておりますけれども、経過措置といたしまして、施行日の前日において支給開始から一年六か月を経過していない傷病手当金受給者につきましても、改正後の規定を適用することといたしております。
このため、具体的に申しますと、来年一月一日時点で傷病手当金の受給権がある方、すなわち、昨年七月二日以降に傷病手当金の支給を開始した方につきましては、出勤に伴い不支給となった期間がある場合、その期間を延長して傷病手当金を受給することが可能となります。

*出典:「第204回国会 衆議院 厚生労働委員会 第11号 令和3年4月14日」議事

したがって、「来年1月からでなければ、傷病手当金の支給期間の通算の適用が受けられないのでは…」と申請をためらっている方に対しては、施行前でも来年1月1日までに出勤日があれば、その日数は施行日以降、延長して取得できるようになる旨をお伝えください。

ただし、傷病手当金に関しては、実際に受給が始まってみると「こんなはずでは…」と驚かれる場合があり、その1つが受給額についてです。
冒頭でご紹介したとおり、傷病手当金の受給額は、ざっくり言うとお給料の約2/3ですが、正確には1日単位の支給ですので、標準報酬日額をベースに計算され、1日あたりの金額=「支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額」÷30日×2/3」です。
ただし、無給であっても、休職中の健康保険料と厚生年金保険料の被保険者分は負担しなければなりません。
例えば、標準報酬月額30万円の40歳以上の人の場合、手取り額は300,000円×2/3―(17,460円+27,450円)=155,090円(※)です。
「お給料が30万円だから、傷病手当金は20万円だと思っていたら、実質的な手取りが15.5万円で、療養中の生活費などのやりくりができない」という声も多く聞かれます。
なお、通常、社会保険料は給与天引きですが、無給期間中は、従業員から会社に振り込みをする必要などがあり、これをつい滞納しているというケースも…。
傷病手当金は、病気やケガで働けない場合の力強いミカタとなりますが、実務的には細かな点で注意が必要だということを覚えておくと良いかもしれません。

※全国健康保険協会「令和3年3月分(4月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京分)」
https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/shared/hokenryouritu/r3/ippan/r30213tokyo.pdf
黒田 尚子(くろだ なおこ)
CFP®認定者
1級ファイナンシャルプランニング技能士消費生活専門相談員資格
消費生活専門相談員資格
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター
公開日: 2021年08月26日 10:00