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複利だけが資産運用ではない

毎月分配型投資信託に逆風が吹いているため「複利効果」が注目を浴びています。ご存じの通り、資産運用における収益の付き方には「単利」と「複利」があります。それぞれについて簡単に説明すると、単利の運用では、当初預け入れた元本に対してのみ収益が付くことになります。利率3.0%の単利型金融商品に100万円預け入れた場合、収益は100万円×3.0%=3万円。以後、2年目も100万円×3.0%=3万円、3年目も同様というように毎年3万円の収益が均等に付くことになります。単利型の金融商品は、半年や1年毎に収益が支払われるのが一般的です。一方、複利の運用では、一定期間毎に支払われる収益を元本に加えて、これを新しい元本とみなして収益が計算されていきます。利率3.0%、1年複利の金融商品に100万円預け入れた場合、1年目は100万円×3.0%=3万円と単利型と変わりませんが、2年目は、1年目の3万円が当初の元本の100万円に加わって103万円が新たな元本になり、103万円×3.0%=3万900円が収益となります。2年目では900円部分が収益が収益を産んでくれたことになり、これが複利効果と呼ばれています。ちなみに3年目は2年目の3万900円が103万円に加わり、106万900円×3.0%=3万1827円となります。運用する期間が長くなればなるほど、複利効果は高くなります。  この複利効果、運用が上手く言っているときには効果が高くなりますが、運用成績が芳しくないときにはせっかく得た収益も損失を被ることに注意が必要です。先に述べたように毎年3.0%の収益を得続けて5年経過したとしましょう。その時の元利合計額は115万9274円ですが、6年目から運用環境が一転して毎年マイナス3.0%の収益が3年続いたとしまします。元利合計額を計算していくと、6年目は112万4496円、7年目は109万762円、8年目は105万8040円になります。一方、単利型の場合は収益部分が払われていますので、同様に計算すると6年目は112万円、7年目は109万900円、8年目は106万2673円となります。数字のお遊びといったらそれまでですが、先に述べたように複利は運用が上手く行っている時は効果的ですが、運用状況が芳しくなくなると単利型より資産は急速に減少していくことになるというイメージを持ってもらうためです。一般的に単利型は収益部分を定期的に受け取っている(利益確定している)ため、運用状況が芳しくなかったとしても既に受け取っている収益部分が影響を受けることはないのです。

  単利運用、複利運用、いずれにもメリット、デメリットがあるのはわかりますが、どちらの投資スタイルを利用するのがよいのでしょうか。残念ながら、万人に共通の正解はありませんが、一般論で言えば現役世代は複利運用、リタイア世代は単利運用を中心に選ばれるとよいでしょう。リタイア世帯は、恒常的に生活費がマイナスとなります。数字を丸めると2人以上の高齢無職世帯の家計は、毎月6万円前後の赤字となるそうです。この6万円部分は保有する金融資産を取り崩すことになるため、単利型の金融商品から得られる収益を取り崩し分に充当するというわけです。もちろん、リタイア世帯が複利運用を行ってはいけないというわけではありません。保有する金融資産で長期運用する部分は複利効果を得ても一向に構わないのです。


深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表

公開日: 2017年06月22日 10:00