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認知症予防は早期発見から
◆認知症になるとできなくなること
認知症になると「意思能力のない者」として扱われ、法律行為ができなくなります。具体的には、不動産の売買や賃貸の契約、介護施設への入所契約などはもちろんのこと、預金口座の引き出しや解約といった日常的なことから、遺言書の作成、生前贈与、相続手続き(遺産分割協議)なども含まれます。
離れて暮らす両親が認知症を患い、日常生活にも様々な制約を受けるようになれば、他人事では済まされなくなる人も多いのではないでしょうか。
◆認知症は予防できる
軽度認知障害(MCI)は、専門医で適切な処置を受けるなどしなければ認知症になる確率が高いものです。軽度認知障害(MCI)から認知症(軽度)へは、1年で10%、5年で40%の割合で移行すると考えられています※2。そして、一度認知症に移行した症状が解消するケースは滅多にありません。
一方で、軽度認知障害(MCI)の段階からは、1年で16~41%の割合で元の健康な状態に回復する可能性があります※3。すなわち、認知症予防のカギは、軽度認知障害(MCI)を早期に発見し、認知症への進行をいかに予防するかにあります。
◆認知症検査を受けてみよう
認知症や軽度認知障害(MCI)を疑う症状が続くようなら、思い切って検査を受けてみましょう。検査には大きく3つの方法があります。
(1)神経心理学検査
問診形式の認知機能検査です。名前や生年月日など自身に関する質問や、簡単な計算問題、記憶力を測る問題などに回答します。検査費用が安く、数百円から数千円で受けられます(保険適用の有無にもよる)。
(2)脳画像検査
CTやMRIを使って脳の断面図を撮影・確認する方法です。脳の萎縮度合いを画像で直接確認し、認知症の進行度を確認します。設備が整った医療機関でしか受けられず、費用も数千円から3万円と高額です(保険適用の有無にもよる)。
(3)MCIスクリーニング検査
日本における認知症の過半を占めるとされるアルツハイマー型認知症は、アミロイドベータペプチドという老廃物が原因で発症します。このアミロイドベータペプチドの排除や毒性を弱める機能を持つ3つのタンパク質の血中濃度を調べる血液検査です。費用はやや高額で数千円から2万円程度です(保険適用の有無にもよる)。
◆どこで検査できるのか
かかりつけ医がいる場合は、まずはかかりつけ医に相談してみると良いでしょう。適切な医療機関を紹介してもらえます。かかりつけ医がいない場合は、精神科や心療内科、脳神経外科、脳神経内科などの外来がある病院や診療所、クリニックであれば基本的にどこでも検査は受けられます。
どんな医者かわからないと不安という場合は、居住地を管轄する地域包括支援センターへ問い合わせる方法もあります。地域包括支援センターは、自治体と連携し認知症研修を受けている医療機関のリストを持っていますから、適切な選択肢を最寄りの医療機関の中から見つけてもらえるはずです。
認知症は、他の病もそうであるように、なりたくてなるものではありません。ネガティブな先入観だけで症状を疑ったり、検査を強要したりすれば、不愉快に感じる人が普通です。誰かを責めたり、原因を求めたりするためではなく、「自分自身も含め、誰にでも起こり得ること」として、理解を深める姿勢が大切といえます。
※1.2013年 筑波大学が発表した研究報告による2012年における認知症の有病者数(462万人)から厚生労働省が推計
※2.一般社団法人 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン(2017)」
※3.一般社団法人 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン(2017)」
関口 輝(せきぐち あきら)
AFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所®長野 事務局長