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残価設定型ローンを再考する

自動車やスマートフォンを購入する際に、「月々の支払いを抑える」「計画的に買い替える」「購入代金がオトク」などのキャッチコピーで勧められるのが残価設定型ローンです。「残価設定型クレジット」「残クレ」などとも呼ばれますが、最近ではさらに名称を変え、スマートフォンでは「スマホおかえしプログラム」や「アップグレードプログラム」のように残価という表現を消しているケースもあります。

いまでは当たり前になった残価設定型ローンですが、間違った認識をされていることも多く、メリットやデメリットも含めて改めて整理してみましょう。

◆残価設定型ローンとは
ある自動車メーカーでは「車両本体価格の一部をあらかじめ残価として据置き、残りの金額を一定期間で毎月計画的にお支払いいただくプランです」と記載されています。この表現から、残価設定型ローンとは購入時に一定期間経過後の残価(※1)を設定し、一定期間経過後は設定した残価でメーカー(または販売店)が買い取る前提で、購入価格から残価を差し引いた金額分だけを分割払いする購入方法と読み取れます。

これが正しいのであれば、たとえば頭金ゼロで、400万円の自動車を購入する場合、残価を40%の160万円に設定すると240万円だけがローンの元本になり、240万円に対して利息を支払えば良いことになります。しかし実際には購入時に、販売店へ400万円すべてを支払う必要があるため、当初借りるローンは400万円です。その返済に対して残価分の支払いは、返済の最終回まで据え置けるというのが正しい表現です。

400万円の車両価格で残価を40%の160万円、一定期間を5年に設定するケースでは、400万円のローンを60回で支払うのですが、60回目に残価分160万円を一括支払いする前提で1回から59回までの返済金額を決定します。つまり支払う利息はローンの元本である400万円に対して発生するため、想像していたより利息の負担が大きくなります。

◆残価設定型ローンのメリットとデメリット
残価は自動車の場合、想定される年間走行距離や契約期間、車種ごとに設定されていますが、残価を任意に決められるケースもあります。またスマートフォンの場合は端末や通信事業者により異なりますが、「48回の支払いのうち24回分の支払いが不要になります」のように、支払回数での表現が目立ちます。これはスマートフォンの販売時に利用される割賦販売契約または個別信用購入あっせん契約が、販売店、通信事業者、消費者の三者契約になり、通信事業者が金利負担を要求しないことが理由です。

一定期間が経過した場合、一般的に以下の3つから選択します。
(A)商品を返却して新しい商品を購入する(買い換える)
(B)残りのお金を払って商品を買い取る
(C)売却する

これらを踏まえた上で考えられるメリットは以下の(1)~(4)です。
(1)月々の支払いが小さくなるので、欲しかったものが手軽に購入できる
(2)一定期間で買い替えるため、常に新しいものを入手できる
(3)ディーラーの一般的なクレジット払いより低金利の場合がある
(4)残価をあらかじめ設定するため、下取り価格が保証される

デメリットは以下の(5)~(7)です。
(5)常にローンの支払いが発生するため利息の負担が大きくなる
(6)月々の負担が小さく見えるので身の丈を超えた買い物をする恐れがある
(7)設定された残価は完全には保証されていない

(7)については、一定期間経過時に条件に合わない場合は購入時に設定した残価が減らされるのが一般的です。たとえば、自動車では走行距離オーバーや、事故などで車両が破損している場合です。スマートフォンでは、画面の割れや本体に傷などがあるものは対象外になるため、スマートフォン全体をしっかりガードするタイプのケースを装着しているものをよく見かけます。

◆残価設定型ローンはアリか?ナシか?
原則的には利息という無駄な支出が発生するため、自動車もスマートフォンも借金してまで買うべきなのかを考える必要があります。しかし、いろいろなものがサブスクリプションサービスなど使い放題で利用される時代ですから、月々に支払える範囲での定額負担により、短いスパンで新商品に買い替えられるのはメリットとも考えられます。

残価設定型ローンが向いていない人は、1つのものを長く使うことに価値を感じる人、一定期間経過後に結局残価を支払って買い取る人、使用頻度が高い人(自動車は走行距離が長い人)でしょう。

新商品を高頻度で買い替えたい人はサブスクや残価設定型ローンは選択肢の1つとなる時代のようです。

※1 残存価格のことで、一般的には下取り価格を指す

市川 貴博(いちかわ たかひろ)

CFP ファイナンシャル・プランナー

生活経済研究所®長野 主任研究員

日本FP協会静岡支部 幹事

公開日: 2022年06月02日 10:00