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副業したら登録は必要か?インボイス制度

近年、労働形態の多様化がすすみ、正式に副業を認める企業が増えています。副業の目的の一つとして収入を増やす点があげられますが、インボイス制度の影響により、手取りが下がる可能性もあります。給料以外に副業によって収入を得たい方はインボイス制度との関わりを把握しておきましょう。

1.    インボイス(適格請求書)とは
消費税率8%と10%が混在する現状をわかりやすくするように、売手が買手に対して、正確な適用税率や消費税額等を伝える仕組みです。具体的には、いわゆる現行の請求書である「区分記載請求書」に(1)登録番号(登録者によって発行されたのか)(2)適用税率(何パーセントの税率か)(3)消費税額等(その額は)の記載が追加された書類やデータを発行する必要があります。これに対して現行の法人や個人事業主が経理業務でよく利用する領収書やレシートは、インボイス制度上では「簡易インボイス(適格簡易請求書)」扱いとなります。

本来インボイスは企業や個人事業主に影響する制度のため、給料収入のみの勤労者には関係ありません。ただし「売手」として副業する勤労者は、インボイスの影響を受ける場合があります。2023年10月から消費税の納税にあたって仕入税額控除を受けるには、インボイスの発行を求められるからです。

インボイスを発行するには、税務署へ消費税の課税事業者の手続きを行なう必要があります。課税事業者になると消費税の納税義務が発生します。したがって消費税の分だけ、手取りが下がる可能性があります。

2.    課税事業者と免税事業者の違い
課税事業者は、税務署へ消費税を納める必要があります。いくら納税するのかというと「商品を売る時に代金と合わせて受け取った消費税額から、仕入れ時に支払った消費税額を差し引いた額(仕入税額控除)」を納めるのが原則です。もしインボイスを保存していなければ仕入税額控除を使えず、受け取った消費税を丸々納めることになります。一方、免税事業者は、売上が小規模の場合に認められ、消費税の納税自体が免除されています。そのため受け取った消費税額は益税となっているのが現状です。

両者の判断基準は「基準期間の課税売上高が1,000万円超えたら課税事業者になりますが、基準以下であれば免税事業者を選択できる」と思っていただければよいでしょう。ちなみに給料にはもともと消費税がかからないので、判断にあたって無視してもらって構いません。

3.副業によってインボイス制度の影響を受けるケース
「免税事業者の範囲でささやかに副業をしよう」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、副業で企業相手に取引をしている場合には、インボイスへの対応が求められるでしょう。なぜなら買手である取引先が、消費税の仕入税額控除の適用を受けるには、インボイスによる経理処理が必要なため、売手である私たちに課税事業者の登録を促してくる可能性があるからです。その場合、免税事業者に該当していても課税事業者へ変更手続きが必要です。対応しなかった場合、取引先の消費税負担が増えるため、契約を打ち切られる可能性もあります。

4.副業によってインボイス制度の影響を受けないケース
買手である副業の取引先が(1)免税事業者、もしくは(2)簡易課税制度を採用している事業者のケースでは、インボイスを発行しなくても問題ありません。免税事業者については、取引先は消費税を納める必要がなく、正確な適用税率や消費税額等を明らかにする必要がないからです。また簡易課税制度とは、仕入税額控除の計算を簡易的なみなし仕入率で行える仕組みです。実際に支払った消費税額を明確にしなくてもよいため、インボイスを発行しなくても構いません。ただし、取引先が(1)免税事業者、もしくは(2)簡易課税制度を採用しているか否かを知るには、現実問題、取引先に直接確認する以外に術がありません。日頃からのコミュニケーションも必要となります。

またフリマアプリ等で手作り商品を販売するなど(3)買手が一般消費者に限定されている場合もインボイスを発行する必要はありません。なぜなら一般消費者は消費税を納める義務はないからです。買手が消費税を納めないならば、売手が税率等を明確にする必要性は低いからです。

5.いつまでに登録が必要か
インボイス制度のスタート(2023年10月1日)と同時に登録を受けるには、2023年3月31日までに「適格請求書発行事業者の登録申請書(登録申請書)」を税務署に提出する必要があります。登録時期が2023年3月31日以降になった場合、2023年10月1日からのインボイス発行には間に合わず、翌事業年度からの発行になるため注意が必要です。

実は本制度、2022年1月導入予定が急遽延長されています。すなわち準備期間中である現在、副業による取引先を確認し、インボイス制度の影響を受けるようであれば、インボイスを発行できるように、または反対に保存できるように準備をしておきましょう。

宮下 貴博(みやした たかひろ)

CFP ファイナンシャル・プランナー

生活経済研究所®長野 主任研究員

公開日: 2022年08月11日 10:00