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高齢の親の財産管理を考える

厚生労働省が発表した2015年の日本人の平均寿命は女性87.05歳、男性80.79歳。世界の国々との比較において、女性が2位で男性が4位の長寿国となっています。個人差が大きいものの、およそ100年前の日本人の平均寿命が男女ともに44歳ぐらいだった事実から考えると、生まれてから亡くなるまでの期間は2倍近くになっているわけです。

加齢とともに身体の衰えが進むことは避けられない事実です。1年間の1人あたり医療費を年齢別に見ると、75歳未満の22.0万円に対して、75歳以上は約94.8万円となっています。
財政状況が健全とはいえない日本において、高齢者医療に関しては、患者負担を増加する方向で検討が進められていることもあり、将来に備えた貯蓄等の必要性は益々高まっているといえるでしょう。

高齢者の財産管理の必要性
一方で、高齢者の財産管理をどう考えるかが課題になってきます。
高齢になると、日常生活費の引き出しや買い物、家電製品の購入、医療費の支払いなど、お金の管理そのものを煩わしく感じる方は少なくありません。また、認知症の発症により、必要のない買い物を繰り返すことや、訪問販売のセールスをそのまま受け入れて高額な契約をしてしまうケースも発生します。
思いがけない財産の減少により、本人の生活はもちろん、その後の介護や相続を通じて子世代の生活にも大きな影響を及ぼす可能性があるため、財産を守るための対策を早い段階で考えておくことが重要といえるでしょう。

財産管理の具体的な手段
高齢の親の財産管理や日常生活をサポートする具体的な手段として、今回は財産管理委任契約と日常生活自立支援事業をご紹介します。

財産管理委任契約とは、自分の財産管理や生活上の事務の全部または一部について、代理権を与える人を選び、具体的な管理内容を決めて委任する民法上の委任契約の一種です。当事者間の合意のみで効力が生じるため、内容は自由に定めることができ、その内容を記載した財産管理委任契約書を作成します。
成年後見制度とは違い、判断能力の減退がなくても利用できるため、本人が希望する時期からすぐに管理を始めることができるのが特徴です。
財産を管理する受任者が家族の場合は無償であることが多いものの、弁護士や司法書士、行政書士といった専門職に依頼した場合は、月額1~5万円程度の報酬の支払いが必要となります。もちろん、親族が受任者となった場合でも、当事者間の合意によって報酬を定めることは問題ありません。家族間で話し合ったうえで、負担の程度に応じた報酬を受け取る方が、親からも頼みやすくなるかもしれません。

一方の日常生活自立支援事業とは、認知症高齢者、知的障害者、精神障害者等のうち、判断能力が不十分な方が地域において自立した生活が送れるよう、利用者との契約に基づき、日常的な金銭管理や福祉サービスの利用援助等を行うものです。
実施主体は各都道府県・指定都市社会福祉協議会で、サービスを利用するためには、社会福祉協議会との契約が必要です。利用料金は実施主体ごとに異なりますが、訪問1回当たりの平均利用料は1,200円程度となっています。成年後見制度の利用までは必要ないけれど、比較的安い費用で、日常生活にかかるサポートを受けたい方には向いています。

財産管理における注意点
こうした制度の利用に際し、大切になるのは現在の財産状況の正しい把握と、親の希望の確認です。
また、財産管理を託された人による財産の横領などが新たな問題となっています。財産管理を任されている親族に対して不審な点があると、相続の際に揉める原因ともなりかねません。また、成年後見制度も含め、専門職による財産の私的流用も多発しているため、契約内容や管理状況についての正確な記録はもちろん、周りの人のチェック体制を確立しておくことが欠かせません。

最後に、たとえ親族であっても、自分の財産の管理を人に委ねることに対して抵抗のある方は少なくありません。ただ、本人の判断能力が衰えてしまってからでは、取り得るべき対応が限られてしまいます。身近に発生した事例や、ニュースなどをきっかけに家族間で話題に上げ、早い段階で今後の方針を決めることが望ましいという点を共有することが大切といえるでしょう。
栗本 大介(くりもと だいすけ)

CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所長野 主任研究員
株式会社エフピーオアシス 代表取締役
公開日: 2017年03月02日 10:00