全員

自動車保険の長期契約は誰得なのか

損害保険各社の自動車保険には、保険期間が1年を超える長期契約があります。保険期間は2年、3年、7年などさまざまですが、1年契約にしか馴染みがない人は、「長期契約すれば割引が大きいのか」という期待や、「等級はどうなるのか」「途中で契約内容を変えられるのか」といった疑問が尽きません。
自動車保険の長期契約にはどのような特徴があるのか、メリットやデメリットを見ていきましょう。

◆契約期間中の等級は変わらない
保険期間中に事故で請求をしてもしなくても、等級は契約時のまま変わりません。例えば、10等級で3年間の長期契約をした場合、事故による請求の有無にかかわらず3年間はずっと10等級のままです。

【3年間無事故の場合】
長期契約が終了した4年目の等級が13等級に上がります。つまり、1年契約で3年間無事故だった場合と同じ等級になります。

3年契約の場合 1年目:10等級→2年目:10等級→3年目:10等級→4年目:13等級
1年契約の場合 1年目:10等級→2年目:11等級→3年目:12等級→4年目:13等級

【1年目に事故で請求が1回あった場合】
長期契約が終了した4年目の等級が9等級に下がります。つまり、1年契約で1回請求した場合と同じ等級になります。

3年契約の場合 1年目:10等級→2年目:10等級→3年目:10等級→4年目:9等級
1年契約の場合 1年目:10等級→2年目: 7等級→3年目: 8等級→4年目:9等級
※1年目に事故で請求があったケース

このように、長期契約は良くも悪くも契約期間中の等級が変わらないのが最大の特徴です。
無事故であれば、本来毎年安くなる保険料が据え置かれるため、デメリットととらえる人もいるでしょう。しかし、事故で請求した場合も3年間の保険料は据え置かれるため、メリットととらえる人もいるはずです。

◆等級以外の要素も考えてみる
長期契約では、契約期間中の等級が据え置かれるのと同様に、契約内容も変わりません。
例えば、契約2年目にゴールド免許になった場合でもゴールド免許割引が途中から適用されず、長期契約が更新されるタイミングまで割引適用がお預けになります。
あるいは、保険会社が商品改定や保険料改定を行った場合でも、保険期間の途中から新しいサービスを利用したり、保険料が安くなったりすることもありません。等級と同様に、契約内容や割引についても長期契約の期間内は据え置かれると考えるとわかりやすいでしょう。
ちなみに、長期契約であっても基本的な補償のラインナップや付随するサービスは、1年契約の場合と変わりありません。長期契約だけに特別な補償やサービスが用意されている実態はありません。

◆誰が得するのか
ここまで見てくると、長期契約のメリットがどこにあるのか、不思議に思う人も珍しくないはずです。
保険会社によっては、長期契約期間分の保険料を契約時に一括で支払うと少し割引が受けられるケースがあるのは事実ですが、それ以外のメリットはわかりにくいと言わざるを得ません。

しかし、長期契約の多くはもっと別な理由から選ばれています。それは「毎年更新手続きをするのが面倒くさい」というものです。
業種や職種によっては、1年に1回とはいえ更新手続きを行うのが困難な人もいるでしょう。夜間に働く人や出張で自宅を空ける生活が続く人などです。これは、長期契約を扱うのが代理店型の損害保険会社だけで、ダイレクト型の保険会社には扱いがないことに紐づいています。長期契約であれば、毎年発生していた面談や電話による更新手続きを、数年に1回に減らせる点に価値があるのです。

そうなると、本当に得をするのは誰なのか、長期契約の本質が透けてきます。
膨大な数の自動車保険契約を扱う保険代理店にとってこそ、更新手続きの作業負担を軽減する観点から長期契約はありがたい仕組みなのです。加えて、長期契約期間中は、他社の攻勢にさらされない点も大きいでしょう。契約者を囲い込む仕組みとしても有効なのです。

長期契約を勧めるかどうかは代理店の裁量に委ねられていますが、長期契約には否定的で1年契約にこだわる代理店もあります。その理由を聞くと、「自宅の火災保険などと違って、補償対象や契約者の状況、契約の条件が数十年も変わらないケースは稀なのが自動車保険。少なくとも1年に1回は接点を持って確認しないと安心できない」からだといいます。

加入者のメリットよりも売り手側のメリットのほうが明確で大きいわけですから、もしあなたが長期契約を勧められたら、慎重に対応する必要があります。少しの手間を省いた結果が思わぬ不利益につながらないように注意しましょう。

関口 輝(せきぐち あきら)

AFP ファイナンシャル・プランナー

生活経済研究所®長野 事務局長

公開日: 2022年10月13日 10:00