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75歳以上の医療費負担増で押さえておきたいポイント3つ
高齢になれば、誰しも持病の1つや2つは抱えているもの。定期的に通院している方も少なくないでしょう。ただでさえ、食料品や水道光熱費、日用雑貨の値上げが続いている今、「医療費がこれまでの2倍になってしまう!」と思い込み、医療費節約のための受診控えにつながらないかが懸念されます。
実際には、1割から2割になったとしても単純に2倍になるわけではありません。そこで、今回の改正について、押さえておくべきポイントを3つまとめてみました。
第一のポイント ~75歳全員が対象ではない~
第一のポイントは対象者です。
負担引き上げの対象となるのは、75歳以上の後期高齢者全員ではなく、一定の所得がある人のみとなっています。その条件は、次の2つを満たしていること。
● 世帯の中に課税所得28万円以上の人がいる
● 世帯年収(年金収入+その他の合計所得金額)が単身世帯は200万円以上、複数世帯は320万円以上ある
課税所得とは、住民税納税通知書の課税標準の額で、前年の収入から給与所得控除や公的年金等控除、基礎控除、社会保険料控除等を差し引いた後の金額です。遺族年金や障害年金は非課税なので、受給していても含まれません。
また、単身世帯というのは、「ひとり暮らし」という意味ではなく、世帯の中に75歳以上の人が1人かどうか。例えば、夫76歳、妻74歳の場合、単身世帯200万円以上が目安になりますし、夫婦いずれも75歳以上であれば、複数世帯320万円かどうかが問われます。
そして、複数世帯の場合、夫の公的年金などの課税所得が28万円以上でも、妻の年金額が少なく、世帯収入が320万円未満なら、窓口負担は夫婦ともに1割のままです。
逆に、公的年金のほかに、個人年金や不動産収入などの収入があって、その合計金額が320万円以上になると、妻の年金額が少なくとも、夫婦ともに2割になってしまうのです。
なお、難しい計算をしなくても、後期高齢者医療広域連合あるいは市区町村から、10月1日以降の負担割合が記載された保険証が交付されていますので、それを確認すれば、新しい負担割合がわかります。
第二のポイント ~3年間の配慮措置で1カ月の負担増は最大3,000円~
第二のポイントは配慮措置があるという点です。
2割負担になった人については、配慮措置が適用され、1割負担の時と比べて、1ヵ月あたり最大3,000円の負担増に抑えられます。
例えば、1ヵ月、医療費総額が10万円かかった場合、これまでの1割負担では1万円、2割負担では2万円になるところを、1万3,000円まででOKということ。
しかし、実際には1ヵ月の間に複数回通院するケースがほとんどのはずです。となれば、窓口の支払いはどうなるのでしょうか?
2割負担の人については、診療日ごとに、
①その月の外来の診療報酬点数の合計を計算する。
②配慮措置の対象になる場合(1ヵ月の外来の診療報酬点数の合計が3,000点~15,000点)、配慮措置によるその月の窓口負担上限額(1割負担+3,000円)を計算した上で
③前回の診療までの窓口負担額の合計と②の差額が、その日に徴収する窓口負担額となります。
例えば、X月の1回目の初診が25,000円(2,500点)かかった場合、窓口で2割負担の5,000円を支払います。2回目の再診では10,000円(1,000点)かかったとすると、前回の診療報酬点数との合計は3,500点。上記②の通り配慮措置対象になり、配慮措置による上限額は1割(3,500円)+3,000円=6,500円。1回目の支払い分を差し引いて、6,500円ー5,000円=1,500円が2回目の窓口での支払い額です。
続いて、3回目も10,000円(1,000点)かかった場合、1,2回目の診療報酬点数との合計は4,500点。2回目同様、配慮措置対象になり、配慮措置による上限額は1割(4,500円)+3,000円=7,500円。これまでの支払い分を差し引いて、7,500円ー(5,000円(1回目)+1,500円(2回目))=1,000円が3回目の額となります。
さらに、4回目の通院で、11万円(11,000点)かかった場合、X月の外来の診療報酬点数の合計が15,500点となり上記②を超え、今度は「18,000円」(高額療養費制度の「70歳以上」「一般・外来」の上限額)が適用されます。
そこで4回目に窓口で支払う額は、18,000円ー(5,000円(1回目)+1,500円(2回目)+1,000円(3回目)=10,500円です。
これらをまとめると、窓口負担の上限額は以下のいずれか低い額となっています。
● 「1割負担+3,000円」(配慮措置の上限値)
● 「18,000円」(高額療養費制度の「70歳以上」「一般・外来」の上限額)
第三のポイント ~配慮措置の払い戻しを受けるには手続きが必要な場合も!~
最後に最も重要な第三のポイント、配慮措置の払い戻しを受ける場合は手続きが必要なケースもあるという点です。
通院先が1つの病院等であれば、第二のポイントで説明した通り、上限額以上を窓口で支払う必要はありません。そうでない場合、1ヵ月の負担増を3,000円までに抑えるための差額を払い戻してもらう必要があります。
この配慮措置は、高額療養費制度の仕組みで行われるため、今までに同制度を利用したことがある方は申請不要。後日、登録されている口座に自動的に振り込まれます。
また、申請しなくても、未申請の人に向けて各都道府県の広域連合や市区町村から払い戻し用の口座を登録するため、申請書が郵送されます。肝心なのは、この書類が届いた場合、忘れずに申請を行うこと。
病院等で高齢者のご相談を受けて、「何か書類が来ていませんか?」とお尋ねすると「役所から手紙がきたけど、何のことかよくわからん」と言って、そのままにしている人もいらっしゃいます。代わりにご家族の方が郵便物をチェックしておくと安心でしょう。
なお、この配慮措置が適用になるのは3年間だけで、外来のみ。厚生労働省の試算によると、2割の対象となる人のうち、配慮措置の恩恵を受けられる人は約8割だといいます。
そして、2割になったことで、増えた負担額の年間平均は約2.6万円。配慮措置がなければ3.4万円という試算もあります。
高齢者にとって、医療費にかかる負担増は決して嬉しい話ではないでしょうが、安易な受診控えは禁物。この負担増の年間平均額を見る限り、他の支出をやりくりしてまかなえない金額ではありません。必要以上に心配するのではなく、上手に相談窓口や制度を活用していただきたいものです。
<参考資料>
※厚生労働省「後期高齢者の窓口負担割合の変更等(令和3年法律改正について)」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/newpage_21060.html
※厚生労働省「全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律について」
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000846335.pdf
※厚生労働省「~医療機関・薬局等のみなさまへ~後期高齢者医療制度に関するお知らせ」
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000981142.pdf
黒田 尚子(くろだ なおこ)
CFP®認定者
1級ファイナンシャルプランニング技能士消費生活専門相談員資格
消費生活専門相談員資格
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター