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だれも知らない「保険」と「共済」の違い
小型四輪車のモデル掛金58,000円程度が記載されていたでしょうか。それらの金額差に驚いて広告を隈なく読み、等級や契約内容によって保険料・掛金が異なることを知りました。そして共済ショップの窓口に出向き、共済制度について根掘り葉掘り質問するに至りました。窓口の方の回答にホッとする気持ちが高まってマイカー共済に乗り換えましたが、一点、最後まで理解しきれなかったのは「保険と共済は何が違うのか」という疑問でした。
●正しく理解している人はほとんどいない
その答えはわからずとも「いつか理解できるかもしれない」と考えていましたが、その後、労働組合や共済団体のコンサルティングを重ねるにつれ、ファイナンシャル・プランナー業界はもちろん、保険業界・共済業界に身を置いていても即答できる方が多くない事実を知るようになりました。
一般的には「保険料」と「掛金」、「配当」と「割戻」、「営利」と「非営利」という用語の違いについて語られますが、いずれも表面的な違いに過ぎません。むしろ、両者の根本的な違いはずばり「利用できる人が異なる点」です。その結果として、提供できる保障の姿も異なってきます。
少し掘り下げて解説します。
両者は契約者から保険料・掛金を受け取り、契約者に保障を提供している点と、数理計算して保険商品・共済制度を設計するプロセスは共通ですが、(1)保険が加入審査をクリアできる人であれば誰でも加入できるのに対し、(2)共済は仲間でなければ加入できない点が根本的に異なります。つまり、保険はオープンな商品、共済はクローズドの制度なのです。
●保険はオープンな商品
保険には仲間という概念がなく、誰でも加入できます※1。そのため、どの職業にも共通な保障は取り揃えられますが、加入者全体の中で、特定の地域や職業などの母集団に特化した保障を設けるのが難しくなります。
加入者全体の中で、例えば「農業者」がもつ共通な課題を解決する保障を「保険商品」に設けるのは現実的ではありません。そもそも利用者が増えるわけもありませんし、「農業者」以外の職業にもそれぞれ特化した特約を揃えれば管理コストが大きくなるからです。加入者にとっても特約の数が多くなると選ぶのが難しくなり、良いことはありません。
●共済はクローズドの制度
他方、共済は一定の地域または職域で構成される協同組合の組合員※2でなければ、加入できないというルール※3があります。その結果として共済団体ごとに提供できる保障が異なってくる理由を具体的に見てみましょう。
JA共済は農業者の仲間でつくった協同組合(農協)が作った制度です。加入者全体(母集団)は農業者から構成され、皆が共通とする悩みを解決するための制度を作れます。農作業中のケガに備えるための農作業中傷害共済や、農機具を運転しているときのケガに備えるための特定農機具傷害共済などです。
「特定農機具傷害共済」と聞いてピンとくる読者は農業者の皆さんでしょう。私の祖父は、農作業中にトラクターの操作を誤り、身体が宙に浮いて危険な状態に陥ったことがあります。日本では高齢の農業者も多く、同様の危険な経験をされた方も少なくないでしょう。そのような方の目には「特定農機具傷害共済」が農業者の仲間に共通な課題解決の手段と映ります。
CO・OP共済は購買生協が作った共済事業です。各購買生協の設立趣意書を見てみると子育て女性が中心となって作った購買生協が多いようです。それだけに、CO・OP共済には持病のある子どもでも加入できる共済があります。
一般的には引受基準緩和型と呼ばれる保障ですが、民間の生命保険※4の引受基準緩和型医療保険のは20歳以上の人しか加入できず、20歳未満で加入できるのは共済団体しかありません。その中でもCO・OP共済の「ジュニアコースJ1900」は0歳から加入できる点で相当にレアな共済です※5。また、告知項目では過去の入院や投薬歴は問わず、現在入院中ではない、入院する予定がないという2つの条件に限られていて、子育て女性を母集団とする共済ならでの特長を感じます。また、満期を迎えると健康体として医療保障を継続加入できるという優れものです。
こくみん共済 coop <全労済>は労働組合が作った共済団体です。その発起団体には製造系労働組合が多かったこともあり、ケガや入院中の仲間でも「事後加入」できる団体生命共済があります。「事後加入」とは保険や共済の給付事故が起きている人を引き受ける事です。労働組合が組合員全員で一律加入するのであれば、全体で収支均衡がはかれるという理屈で、労働組合業界の事情が反映されてできあがってきた共済です。
私は労働組合の責任者と日々お会いしていますが、「うちの組合員が事故にあって結局は亡くなってしまったんだけれど、その少し前に組合員の家族を守るために何ができるかという話になり、組合員全員で集まって合意形成し全員一律加入したんだよね」と言われたことがありますが、個人加入の保険商品では存在しません。
最後にもうひとつ、自治労共済という地方公務員の労働組合が集まって作った共済事業があります。公務員に共通の課題として、禁錮以上の刑に処せられた場合(執行猶予付きを含む)に失職すると法律で定められていています※6。
これは自動車事故でも同様です。一般的な自動車保険や共済には弁護士費用特約がありますが、これらは過失割合でもめている場合や、無過失事故で相手方が支払いに応じない場合に「民事」の弁護士費用を負担する特約です。ただ、公務員の皆さん共通の課題として、禁固刑以上になるのか罰金刑になるのかでは失職するのかしないのかという大きな課題を抱えているため、自治労共済に付帯される弁護士費用特約は民事だけではなく刑事弁護の費用も保障する制度となっています。
いかがでしょうか。共済は母集団が異なるため、母集団に共通な課題を解決する制度が作れること、その結果として提供できる保障の姿も異なってくる理屈について触れました。また、共済は永続的な発展のため、仲間に共通な課題が何かを突き詰めていくことが求められています。
※1ただし、一般的に危険とされる職種(レーサー、登山家、アイスホッケー選手、ラグビー選手、プロボクサー、プロレスラー、サーカス団員、スタントマンなど)の方は生命系・医療系の保険や共済には加入できない
※2その家族を含む
※3生活協同組合の場合は消費生活協同組合法第十条二号など。JA共済は農業協同組合法により、正組合員(農家組合員)のほか、准組合員になる方法と員外利用(JAごとに利用高の2割までは組合員にならずに利用する方法)が認められている
※4少額短期保険も含む
※5こくみん共済 coop 、JA共済は15歳から引き受け
※6地方公務員法28条4項・16条1号。ただし、条例に特例があれば、失職しない場合がある
塚原 哲(つかはら さとし)
CFP ファイナンシャル・プランナー
生活経済研究所®長野 所長