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介護保険で住宅リフォームを行うときの注意点

先日、ある方から相談を受けました。内容は「離れて暮らす一人暮らしの父親(78歳)が自宅の玄関の段差につまずきケガをした。幸い大事には至らなかったが、先々のことも考え、自宅のリフォームを検討したい。費用を助成してもらえる制度はないか」というものでした。

■リフォーム費用は、介護保険から給付が受けられる
介護を理由とするリフォームの場合、公的介護保険の給付が受けられます。利用者負担はリフォーム費用の1割で、残りの9割は介護保険から給付されます。一定以上収入のある方や現役並み所得者は2割または3割の利用者負担となります。

ただし、1つの住宅につき「支給限度基準額」が設けられています。これは利用できる上限額で20万円です。例えば、リフォーム費用が10万円であれば支給限度基準額の範囲内なので、その9割の9万円が後日、銀行口座に振り込まれます。総額で支給限度基準額20万円を超えなければ、数回に分けて工事をしても構いません。

対象となるのは次のような工事です。
1. 手すりの設置
2. 段差の解消(敷居の撤去、スロープの取り付け、床のかさ上げなど)
3. 床材の変更(滑りにくい材質への変更、つまずきやすい畳からフローリングへの変更)
4. 扉の取り換え(引き戸やアコーディオンカーテン等への交換など)
5. 洋式トイレへの便器の取替え(和式から洋式への変更、洋式トイレの高さの変更など)
6. 上記工事に付帯して必要となる工事(手すり設置のための壁面補強など)

あまり知られていないのですが、要支援・要介護の度合いが3段階以上重くなった場合は、もう一度20万円の支給限度基準額が設定されます。いきなり「あれも、これも」と工事するのではなく、ケアマネジャーに相談のうえ、必要なものから始めていけばよいでしょう。

■介護保険を利用する際の注意点
公的介護保険のサービスを利用するには、要支援または要介護認定を受けなければなりません。認定の申請からサービス利用までは通常1ヶ月以上を要するため、老親の状態について不安を感じるなら、早め申請を検討するのがよいでしょう。

さらに、要支援・要介護の認定を受けたとしても、リフォームの内容を事前に市区町村の介護保険課に申請し、着工の許可通知を受けなければなりません。事後申請は認められていないため、事前申請を忘れてしまうと全額利用者負担となってしまいます。

■自治体独自の制度も検討
自治体独自の住宅リフォーム助成もあるので、あわせて調べてみましょう。筆者が住む東京都文京区では「高齢者等住宅修築資金助成」という制度があります。65歳以上の高齢者世帯が対象で、こちらも事前申請が必要です。

対象となる工事は先述した介護保険とほぼ同じですが、車いすに対応した洗面台の取替えや、階段昇降機、車いす用リフトの設置、ホームエレベーターの設置なども対象になります。助成金額は税抜き工事費の10%で、上限20万円です。

■老親について「ちょっと心配だな」と思ったら
介護というと「認知症」を想起される方も多いと思いますが、介護が必要となった原因で意外に多いのは「脳血管疾患」や「骨折・転倒」です。こうした傷病の場合、「ある日、突然、介護に直面する」というケースが多いのです。また、元気であった方でも、骨折・転倒をきっかけに外出の機会が減り、その流れで認知症を患い、一気に状態が重くなるケースもあります。転倒する前に介護保険等を利用して住宅リフォームをすることで、介護状態が重くなるリスクを軽減できます。

75歳を過ぎると要支援・要介護認定を受ける方が急増します。老親がある一定以上の年齢になったら、いざというときに備えて準備をしておきましょう。認定の申請先は老親がお住いの市区町村ですが、まずは「地域包括支援センター」に相談するとよいでしょう。これは「高齢者のための公的な相談窓口」で、介護や看護の専門家が常駐しています。介護保険の認定申請やサービス利用、ケアマネジャーの紹介など、様々なサポートが受けられます。
 

中山 浩明(なかやま ひろあき)

CFPファイナンシャル・プランナー

生活経済研究所®長野 主任研究員

公開日: 2023年05月18日 00:00