収入だけで保険料(保障)を決めるのはナンセンス
家計相談、あるいは雑誌などの家計に関する取材で度々質問を受けるのが、「生命保険の保険料は支出(収入)の何%にすればよいのですか」というものです。××%と答えれば、イメージはわきやすく、また雑誌などでは図表を作るのにも好都合なのでしょう。
しかし、支出の何%という答えに違和感を覚えることから、筆者はこの手の質問には答えを控えさせていただくことが多いのです。もちろん、質問に答えないだけではなくその理由もきちっと答えています。その理由は「%」をかける前の数字、言い換えれば支出(収入)のほか、資産額、社会保険(年金)の種類などが、人(家計)によって大きく異なるため、ひとくくりに××%という答えにならないからです。
極端ですが、ここに毎月の手取額20万円のAさん、同50万円のBさんがいるとしましょう。この2人に毎月の生命保険料は10%までなら、家計に負担なく支払い続けられますと回答したとします。このケースでは、Aは毎月2万円、Bさんは毎月5万円まで保険料を苦もなく支払えることになりますが、貯蓄(資産)を考慮すれば別の答えが出てくるはずです。Aさんは収入が低いため、貯蓄をあまり保有していないはず。大病や大きなケガを負った場合、貯蓄でカバーすることが難しいだろうから、ある程度の貯蓄を確保できるまでは、相応の生命保険に加入(保障を得ておく)しておく必要があるだろうとなるのです。一方、Bさんは収入が高く貯蓄もしっかり確保してきたのであれば、大病や大きなケガを負ったとしても、貯蓄でかなりの部分がカバーできるはず。このためBさんは生命保険は最低限の保障で十分と考えられるのです。結果として、実際の保険料負担は収入の多いBさんの方がAさんよりも少ないということが往々にしてあるからです。
収入や資産額だけではありません。働き方でも必要な生命保険の保障は変わってくるのです。勤労者であれば、病気などで働けなくなった場合、一定の要件を満たせば「傷病手当金」が最長1年6ヵ月支給されます。一方、フリーランスを含む自営業者の人には、傷病手当金はありません。また、亡くなった場合、勤労者は「遺族厚生年金」が支給されますが、フリーランスを含む自営業者に遺族厚生年金はありません。つまり、フリーランスを含む自営業者の人は、同じ資産額、収入であったとしても、働き方が異なれば、必要な保障額は異なってくるというわけです。
また、本人がどのような医療を望むかによっても必要な保障は変わってきます。たとえば、胃ガンになった場合、胃ガンは完治する病なので、いつもの病院で手術や治療をしてもらうので構わないというYさん。いやいや胃ガンといえどもガンに変わらない。完治するガンとはいえ、手術や治療は大病院の名医に診てもらおうと考えるZさんがいるとします。このケースでは、同じ胃ガンの手術や治療であったとしても、Zさんの方が高額な医療費がかかることでしょう。Yさん、Zさんの収入、資産額が同じであったとしても、医療費負担を考慮すれば、Zさんの方がガン保険や医療保険による保障を充実させる必要がある、言い換えればZさんの方が保険料負担は多くなると考えられるのです。
このように多面的な判断の元に生命保険の保障を考えるため、ひとくくりに収入の××%の保険料負担なら安心、あるいは適正と答えることができないわけです。収入の××%という割合に何ら意味はないのです。
深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表