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iDeCo・NISA時代の「個人年金保険」の活用方法
自助努力による資産形成手段として、iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)とNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)はすっかり世の中に定着した感があります。iDeCoは2017年1月に加入対象がほぼ全ての公的年金被保険者に拡大された結果、加入者数は2023年3月末時点で290万人にまで増加しています。また、2014年1月に制度がスタートしたNISAは、2023年3月末時点で1,874万口座(一般NISAとつみたてNISAの合計)にまで増加しています。さらに、来年2024年1月からは、非課税措置の恒久化と投資枠の大幅拡充が図られた新NISAがスタートします。
ところで、近年はあまり耳にしませんが、自助努力による老後資産形成手段と言うと、かつては「個人年金保険」の名前が真っ先に上がったものです。そこで今回は、iDeCo・NISA全盛時代における個人年金保険の役割と活用方法について解説します。
■個人年金保険とは
個人年金保険とは、保険料を事前に積み立てて一定期間経過後に保険金を年金形式で受け取る「生存保険」の一種です。現役期に保険料を積み立てて、老後に年金として受け取るというしくみ自体は、他の年金制度等と大差ありません。
個人年金保険の特徴として、自分の好みに応じて制度設計をカスタマイズできる点が挙げられます。例えば、保険料の払込方法、資産運用および年金給付形態について、下記のパターンの中から選択できます。なお、パターンの選択肢は生命保険会社あるいは保険商品によって異なります。
<保険料の払込方法>
・平準払い: 加入中に保険料を定期的(月払い・半年払い・年払いetc)に納付
・一時払い: 加入(契約締結)時に保険料を一括で納付
<資産運用>
・定額タイプ: 年金額は運用実績にかかわらず原則一定(一般勘定で運用)
・変額タイプ: 年金額や解約返戻金は運用実績に応じて変動(特別勘定で運用)
<年金給付形態>
・受給期間による分類: 終身年金(保証期間付き)、有期年金、確定年金、夫婦連生年金など
・年金額による分類: 定額型、逓増型、前厚型など
■iDeCo・NISAには無い個人年金保険の特長
【特長その1】 原則誰でも利用可能
前述の通り、iDeCoの加入対象は2017年1月に大幅に拡大されたものの、加入可能な年齢は現在は65歳未満(※1)とされています。また、国民年金の被保険者区分(第1~3号)や他の企業年金等に加入しているか否かによって拠出限度額が異なります。
一方、個人年金保険の加入資格には法令上の制約は無いため、生命保険会社が引き受けるのであれば、原則誰でも加入・利用できます。
(※1)資産所得倍増プラン(2022年11月28日決定)では、iDeCoの加入可能年齢の70歳への引上げが提唱されている。
【特長その2】 保険料の設定および支払方法が柔軟
個人年金保険にはiDeCoやNISAのような拠出限度額は制度上設けられていないため、商品設計上定められた範囲内であれば、保険料を自由に設定できます。
保険料の支払方法も、iDeCoでは月払いが原則(年単位拠出も可能だが制約多し)、つみたてNISAでは月払いまたは日払いが主流ですが、個人年金保険では月払い・半年払い(ボーナス払い)・年払い・一時払いなどから選べます。
また、支払方法を変更できるケースも多いようです。例えば、若いうちは毎月の給与から保険料を払うのが厳しいためボーナス払い(年2回)を活用し、その後収入に余裕が出てきたら月払いに変更するといった対応が可能です。
【特長その3】 少額だが所得控除が適用される
個人年金保険の保険料には生命保険料控除が適用されるほか、一定の要件(保険料払込期間10年以上、年金支給期間10年以上など)を満たせば生命保険料控除とは別枠で個人年金保険料控除が適用されます。生命保険料控除および個人年金保険料控除の水準(所得税:最大年4万円、住民税:最大年2.8万円)は、iDeCoやNISAの拠出限度額に比べると見劣りするものの、既にiDeCoやNISAの枠を満額使用しているのであれば、これを活用しない手はありません。
【特長その4】 いざという時の資金利用が可能(契約者貸付、中途解約)
iDeCoは、自助努力による老後資産形成を支援するという制度の性質上、原則60歳までは年金資産を取崩せませんし、任意での脱退(解約)もできません。また、現行のNISAは、運用商品の売却は可能ですが、売却した部分に係る非課税投資枠は復活しません(※2)。
一方、個人年金保険には、解約をしなくても年金原資(解約返戻金)を担保に資金を借りる「契約者貸付」というしくみがあります。ただし、あくまで借金なので利息を上乗せして返済する必要があるほか、返済をしないと、将来の給付が減額されたり保険契約自体が失効する恐れがあります。
また、最後の手段として、中途解約することで解約返戻金を受け取ることができますが、多くの場合、解約返戻金はそれまでに払い込んだ保険料の総額を下回るのが通例です。
(※2)2024年1月開始の新NISAでは、運用商品を売却した場合、当該売却分の非課税限度額(総枠)が翌年以降に再利用可能となる。
■加入・利用するなら企業・団体が窓口となる制度も検討を
個人年金保険は、30年以上前は予定利率が5.5%を超えるなど収益性の高さが注目されていましたが、現在は、低金利・マイナス金利の影響を受けて予定利率は1%台まで低下しています。生命保険会社の中には、資産運用リスクや長寿リスクを回避するため、個人年金保険の新規引受を停止する所もちらほら出てきています。
また、近年販売されている個人年金保険は、「変額個人年金保険」や「外貨建て個人年金保険」など運用収益を追求するタイプが主流ですが、これらは契約者が資産運用リスクを負うしくみであるほか、保険契約の維持・管理に必要な手数料に加えて資産運用に関連する手数料が別途発生するなど、コストが総じて高めになる傾向があります。そのため、加入を検討する際は、パンフレットや契約のしおりだけでなく、「契約概要」や「注意喚起情報」などの契約締結前交付書面を必ず確認し、納得したうえで加入する必要があります。
最後に、勤労者(会社員・公務員・団体職員など)が個人年金保険への加入を検討する際は、勤務先の「拠出型企業年金保険」あるいは労働組合の「年金共済」の存在の有無をまず確認するようにしましょう(※3)。これらの制度は、基本的なしくみや税制上の措置は個人年金保険とほぼ同じですが、企業・団体が加入募集に係る事務を担うことで付加保険料(付加掛金)を低廉に設定できるため、一般向けの個人年金保険よりも手数料やサービスの面で優遇されているのが通例です。
以上、個人年金保険はiDeCoやNISAとはまた異なる特性を有しており、利用する価値は十分に高いと筆者は考えます。必要があれば、iDeCoやNISAと上手く組み合わせて活用したいところです。
(※3)ご存じですか? 勤労者ならではの特典「拠出型企業年金保険」(2020年12月17日上程)
https://fpi-j.tv/announce/210
谷内 陽一(たにうち よういち)
社会保険労務士
証券アナリスト(CMA)
DCアドバイザー、1級DCプランナー