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住宅性能に関する法改正と光熱費の変化

2023年9月13日公布の改正建築物省エネ法を受けて、2025年4月以降に建築確認が提出される住宅には、一定の断熱性能を有するいわゆる「省エネ住宅」であることが義務付けられます。これにより従来の住宅と比べ優れた省エネ性能の住宅が多くなり、快適さと光熱費の引き下げによる生活費の削減などさまざまなメリットが発生します。

ただし「省エネ」といっても、住宅の性能、電気やガスを使う住宅設備機器の高効率化、ライフスタイル、電気やガス料金体系を考慮した家電製品等の利用の仕方など、たくさんの要素があります。また、住宅の省エネ性能にも断熱性能だけでなく、気密性、自然エネルギー(太陽光・地熱など)の活用、換気の仕方、間取りなど、さまざまな要素が関係します。

今回は、この中から断熱性能の違いにより光熱費がどれくらい変わるのかをシミュレーションしてみます。

●断熱等性能等級
2023年4月以降は住宅の断熱等性能等級について等級6、7を新設し7段階に定めています。

等級7(UA値0.26)HEAT20のG3グレードと同様
等級6(UA値0.46)HEAT20のG2グレードと同様(北海道などで通常に必要とされる断熱性能)
等級5(UA値0.6)長期優良住宅やZEHに求められる基準
等級4(UA値0.87)次世代省エネ基準(新しい最低基準)
等級3(UA値1.54)新省エネ基準
等級2(UA値1.67)旧省エネ基準(現在の最低基準)
等級1    その他

現在、新築住宅に求められている断熱等性能等級は等級2相当以上ですが、2025年4月以降には等級4が義務付けられ、6地区(南関東・東海・北陸・近畿・中国・四国・九州内の指定地域)に該当する場合はUA値0.87をクリアする必要があります。

●UA値
UA値(外皮平均熱貫流率)とは、建物のそれぞれの部位の熱損失量を合計して建物外皮(屋根、天井、壁、開口部、床、土間床、基礎など、熱的境界となる部分)の面積で割ったもので、数値が小さいほど断熱性能が高くなります。また、国内の寒暖差が大きいことから8つの地域に分けられており、それぞれの地域区分により基準となるUA値が違います。

最近では住宅の断熱性能といえばUA値が一般的であるため、住宅購入時には営業担当者にUA値を尋ねれば回答が得られます。

●光熱費の計算
電気やガスの使用量や使用時間にもよるため一概に言えませんが、同条件で試算し比較することは可能です。「住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラム」というものが公開されており、建物や設備機器について、条件を選択・入力すると、住宅のエネルギー消費性能や外皮性能が評価できます。計算方法は、「H28年省エネルギー基準」に準拠しており、計算結果は、公的な届出や補助金の申請にも利用できます。

今回は以下の条件で試算してみました。
・    建物は120.08㎡、地域区分は6地域(東京23区を想定)
・    年間の日照地域区分:A4区分(年間の日射量が多い地域)
・    暖冷房方式は共に「居室のみを暖房(冷房)する」とし、設備機器の種類は「ルームエアコンディショナー」でエネルギー消費効率の入力は「入力しない(規定値を用いる)」
・    換気は壁付け式第二種換気設備、または壁付け式第三種換気設備
・    給湯器はエコキュートまたはガス潜熱回収型給湯器で浴槽は高断熱仕様、配管はヘッダー式の13A以下
・    照明は全てLED
・    太陽光は真南から東および西へ15度未満、パネル設置傾斜角は30度
・    コージェネ、太陽熱、熱交換はなし

出てきた数値はそのままでは使用できないため、単位を換算し、電気料金やガス料金の基本料金や使用料金を別途計算します。すると以下のような結果になりました。

(1)断熱等性能等級2(ガスボイラー、太陽光発電なし)の年間光熱費(電気、ガス)約36.6万円
(2)断熱等性能等級4(ガスボイラー、太陽光発電なし)の年間光熱費(電気、ガス)約31.8万円
(3)断熱等性能等級4(エコキュート、太陽光発電5kW)の年間光熱費(電気、ガス)約17.8万円(当初10年)
(4)断熱等性能等級6(エコキュート、太陽光発電5kW)の年間光熱費(電気、ガス)約15.9万円(当初10年)
(5)断熱等性能等級7(エコキュート、太陽光発電5kW)の年間光熱費(電気、ガス)約15.3万円(当初10年)

●考察
(1)と(2)の年間光熱費(電気、ガス)の差は約4.8万円、50年では240万円です。単に住宅の断熱性能を上げただけではこの程度の差ですが、給湯器を変え太陽光発電を入れた(5)では、(1)との年間光熱費(電気、ガス)の差は約21.3万円にもなります。太陽光発電の場合、当初10年間と11年目以降の売電価格が異なるため、当初10年を1kWhあたり16円、11年目以降を8.5円と設定し、パワーコンディショナーの交換などメンテナンス費用は一切考慮せずに試算すると、50年では約975.7万円の差になります。

また、(4)と(5)ではほとんど差がないこともわかります。住宅性能を上げるのにかかったコストを回収できない場合もありますから、断熱等性能等級は上げれば上げるほど良いものではありません。

住宅についてはライフスタイルの多様化により、賃貸派と持家派にも分かれますが、もし住宅を購入するのであれば、デザインだけでなく住宅性能にもこだわってみると生涯のキャッシュ・フローが良くなるかもしれません。

市川 貴博(いちかわ たかひろ)

CFP ファイナンシャル・プランナー

生活経済研究所®長野 主任研究員

日本FP協会静岡支部 幹事

公開日: 2023年09月21日 10:00