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老後の準備は人的資本を錆びつかせない事

公的年金の受給資格期間が平成29年8月1日より短縮されたのはご存じのはずです。これまで25年以上の加入期間が必要だった受給資格が、10年以上に短縮されたのです。受給資格期間が短縮されたのは無年金者を無くす意味では朗報と言えますが、資格期間の改定は消費税の10%引上げとセットで行う予定だったものが、受給資格期間の短縮だけ先に実施されたわけです。財源はどうするんだ?という議論は別にして、受給資格期間の短縮実施に合わせたわけではないと思われますが、ある週刊誌が年金の支給開始年齢を75歳に引き上げる案がひそかに議論されているという特集記事を掲載しました。その記事の真贋はさておき、いずれ支給開始年齢65歳は、引き上げられる可能性が高い気がしてなりません。支給開始年齢が引き上げられた場合、老後の生活、また準備が大きく変わってくることが予想されますが、その際最も大切なことは「人的資本」を如何に長く活用できるかが鍵になると思われるのです。

  老後の準備、中でも定年退職までにいくら準備しておけばよいのか?という質問の回答には、残念ながら万人に共通の正解はありません。人それぞれライフプランやライフスタイルなどが異なることがその理由ですが、老後の準備において万人に共通する正解の1つに「人的資本」を確保しておくことはあげられます。人的資本は誰もが持ち合わせているもので、簡単に言えば働く力(勤労)です。なあ~んだと思わないでください。この働く力を長い間キープできれば、たとえ公的年金の支給開始年齢が引き上げられても乗り切れると考えられる、否、最強の老後の準備と言えるばすです。なぜなら、高齢になれば人的資本が錆びついてしまい、収入を得る力がなくなる、だから人的資本が錆びつく前にしっかりと資産を積み上げておきましょうとなるわけです。しかしながら、人的資本が錆びついていなければ収入を得ることができるのですから、積み上げる資産は錆び付いている人と比較して少なくて済むのです。このように述べると一生働かせるつもりか、老後(セカンドライフ)が無いまま一生を終えるのか等々の反論があると考えられますが、何も一生朝から晩までのフルタイムで働きましょうと言っているわけではありません。セカンドライフを楽しみながら、空いている時間をうまく活用して働けるようにしたらいかがですか?と言いたいわけです。

  巷言われているのは、健康寿命と平均寿命の間には、概ね10歳前後の差があると言われているのです。さらに、あくまでも筆者の実感ですが、若年層でも精神疾患などで休職していたり、仕事を辞めようと悩まれていたりする人が多い気がしてならないのです。ここで休職したら、仕事を辞めたらと無理する気持ちもわからなくありませんが、無理がたたって人的資本を一部削いでしまったり、最悪人的資本を無くしてしまうことの方が、将来を俯瞰すれば大きな損失となってしまうのです。 

老後の準備は早いうちから行った方がよいと言われますが、その最たるものはお金の準備よりも、人的資本を錆び付かせない、あるいは無にしないことだと思われるのです。お金の心配よりも、人的資本を衰えさせずに如何に歳を重ねていくのかが、万人に共通の老後の準備と思えてならないのです。人的資本を錆び付かせない、有り体に言えば健康に留意することですが、この場合の健康は肉体的なものと、精神(心)的な面の両方を健全に保つことだと心がけるべきなのです。極端な言い方になりますが、人的資本さえあれば何とかなる、それだけ人的資本は大切、かつ優れ物なのです。


深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表

公開日: 2017年08月31日 10:00