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弁護士保険:新しい安心を求めて

学校のいじめやストーカーなどの被害に遭遇したときに、弁護士に相談し法的に対策を取ることは効果的です。とはいえ、多くの人が最初に案ずるのは弁護士費用でしょう。そこで今回は弁護士費用に焦点を当て、まずは一般的な報酬体系から解説をはじめましょう。

●弁護士費用はいくらかかるのか
例えば、レジャーにおけるアクシデントで他人に骨を折るなどの大ケガを負わせてしまい、相手方から800万円を賠償請求されたとしましょう。そこで、弁護士に依頼し、示談交渉によって賠償金を500万円まで減額して和解できた場合、弁護士の費用としてどれくらいかかるのでしょうか。

大まかにいうと、弁護士の費用は一般的に「着手金」と「報奨金」の2つにわかれています。

「着手金」とは、弁護士が案件を受ける際に最初に支払う費用で、弁護士が具体的な業務に取り掛かる前に支払うのが一般的です。着手金の額は、依頼する弁護士やその専門性、案件の複雑性によって異なり、数十万円から数百万円が一般的な範囲とされています。

「報奨金」とは、弁護士が依頼人の目的を達成した場合に支払われる報酬で、一般的には成功報酬とも呼ばれます。賠償請求をする側と受ける側で異なりますが、賠償請求をする側の場合、報奨金は得られた賠償金や和解金の額の通常10〜30%程度とされています。

逆に、賠償請求を受ける側の場合、例のように賠償金が800万円から500万円に減額できた場合、この減額分300万円の10〜30%が報奨金となるケースが一般的です。

さて、今回の事件の一例として、着手金32万円、報奨金が44万円だったとしましょう。自分自身の権利を守るために専門的な助言とサポートが必要とはいえ、合計76万円が弁護士費用としてかかる場合、皆さんは容易に依頼できるでしょうか。実際には、これらの費用がブレーキとなって依頼できず、泣き寝入りするケースが少なくありません。

●弁護士保険が登場している
そんなわが国の保険業界にも、近年、新しい風が吹き込んできました。それは、「弁護士保険」という新たな保険商品です。自動車補償(保険・共済)では交通事故における弁護士費用を補填する特約がありますが、今回取り上げる弁護士保険はもっと幅広く、日常生活で直面する可能性のある法的トラブルへの備えとして有効です。日本の弁護士保険市場は他の国に比べて導入が遅れていましたが、近年、急速に広がっています。現在、個人向けには①ミカタ少額短期保険、②エール少額短期保険、③アシロ少額短期保険の3社が参入しています※1。

この保険の最大の価値は、法的トラブルが発生した際に、手軽に弁護士のサポートや相談を受けられる点にあります。

●待期期間と免責期間に留意
弁護士保険の見極めのポイントとして、待機期間と免責期間があげられます。

保険の給付を得られそうな人が、ぎりぎりになって保険に加入(事後加入)するという倫理観の欠如が横行すると保険収支がマイナスとなり、どの保険も存続できなくなります。この事後加入を防ぐしくみとして設けられている期間が待機期間と免責期間です。

待機期間とは保険の責任開始日以降3カ月をいい、この期間中に発生した原因事故については保険金が支払われません。ただし、待機期間中であっても、交通事故のような特定偶発事故は事後加入ではない事件と判断されて給付が受けられます。

免責期間とは、責任開始日以降一定期間をいい、この期間中に発生した特定の原因に対しては保険金が支払われません。交通事故のように発生した原因日がはっきりわかれば事後加入を防げますが、離婚・相続・親族関係のトラブルのように、原因日が特定しづらい事件は事後加入かどうかの判断が難しいので、事由ごとに免責期間が設けられています。対象となる原因と免責期間は各社で異なりますので、必ず確認しておきましょう。

各社の免責期間
①    ミカタ少額短期保険
リスク取引、相続、離婚、親族関係に係る原因(1年)
②    エール少額短期保険
親族関係に係る事件(1年)
相続に係る事件(2年)
離婚に係る事件(3年)
③    アシロ少額短期保険
労働・勤務に係る事件、賃貸借契約に係る事件、相続・婚姻その他親族関係に係る事件、差止め・保護命令・禁止・停止の請求に係る事件(1年)

免責期間の長さが給付を受けられない足かせになる可能性があるため、契約前に必ず確認しましょう。

●モデルケースではいくら受け取れるか
次に、保険料と受けられる保険金額を比較してみましょう。冒頭のケースのように、賠償金を請求された側として、弁護士に着手金32万円、報奨金44万円支払うケースで算出してみます。

各社の保険料と保険受取額
①    ミカタ少額短期保険
保険料月額2,980円(スタンダードの場合、着手金80%、成功報酬50%給付)
着手金32万円×80%=25.6万円
報奨金44万円×50%=22.0万円 保険金合計 47.6万円補償
※年間支払限度額500万円、通算支払限度額1,000万円

②    エール少額短期保険
保険料月額2,480円(レギュラー+プラン、着手金100%、報奨金50%給付)
着手金32万円×100%=32.0万円
報奨金44万円× 50%=22.0万円 保険金合計 54.0万円補償
※事案限度額100万円、年間支払限度額200万円、通算支払限度額1,000万円

③    アシロ少額短期保険
保険料月額2,950円(70%プラン、着手金70%、報奨金70%給付)
着手金32万円×70%=22.4万円
報奨金44万円×70%=30.8万円 保険金合計 53.2万円補償
※年間支払限度額500万円、通算支払限度額1,000万円

このように、弁護士保険の加入を考える際には、保険の待機期間、免責期間、補償額、支払い限度額等の要素をしっかりと比較・検討しましょう。法的トラブルは予測が難しく、いつ何が起こるかわかりません。また、年齢を重ねるとともに稼げる力が減少してくると、介護や遺産分割など、家族間のトラブルが増えていきます。弁護士保険は多くの人にとって有用な選択肢となるでしょう。

※1.ジャパン少額短期保険は痴漢冤罪の事件に特化しているため、今回は除外

塚原 哲(つかはら さとし)

CFP ファイナンシャル・プランナー

生活経済研究所®長野 所長

公開日: 2023年12月07日 10:00