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今年も値上げ!?火災保険改定の背景と中身

前回、火災保険の改定(保険料の引き上げ)についてこちらでコラムを書いたのは2022年の8月でした。それから2年も経たずにまたもや保険料の引き上げをお知らせすることになります。実に、直近の10年間で5回目、保険料の引き上げ幅としては過去最大となる見込みですが、今回は単なる保険料の引き上げだけではなく、水災に対する保険料が市区町村ごとに細分化もされます。

■改定の背景
損害保険料率算出機構は2023年6月28日、住宅総合保険(個人向け火災保険料)の目安となる「参考純率」を全国平均で13%上げると発表しました。背景には、相次ぐ自然災害の発生、住宅の老朽化の進展(漏水事故や電気設備による火災、台風などによる損壊リスクが高くなる)、資材価格と人件費の上昇による修理費用の高騰などによる保険金支払いの増加があります。

このうち、自然災害におけるリスク環境は近年大きく変化しています。国際的な研究においても、甚大な被害を及ぼす強い台風の増加や台風の接近頻度の変化等に関して、気候変動(地球温暖化)の影響が示唆されるなど、これまでとはその出現傾向も大きく異なってきています。こういった面を考慮し、火災保険参考純率を算出するためのリスク評価において、近年の台風データを重視する手法に変更されています。

■水災に対する保険料の細分化
現行の火災保険参考純率では、水災に対する料率は全国一律です。しかし、水災による損害と支払いの増加により火災保険料の値上げが続く中で、水災に対する料率体系の見直しが必要な状況となってきました。
課題とされたのは、(1)契約者間の水災リスクの違いによる保険料負担の公平化を図ること、(2)水災リスクが低いと判断した契約者は水災保障を外す傾向にあることから、適正な料率水準を確保するために更に水災に対する料率の引き上げが必要になる。結果として水災保障を付帯できなくなる契約者が増え、社会全体の保障機能が損なわれる懸念がある、という2点です。
このような課題を解消するために、全国一律だった水災に対する料率がリスクに応じて細分化されることになったのです。

■どのくらい保険料が上がるのか
市区町村別に、保険料の安い「1等地」から保険料の高い「5等地」まで、水災リスクに応じて5段階に細分化されることになります。
例えば東京都の場合、H構造(木造)の改定率は、1等地▲1.3%、2等地+3.0%、3等地+7.7%、4等地+13.1%、5等地+19.0%となります。

最も保険料が高い5等地に該当するのは、台東区、墨田区、江東区、荒川区、足立区、葛飾区、江戸川区の7区です。お住いの市区町村が新たに何等地に区分されるのかは、損害保険料算出機構のWEBサイトにある「水災等地検索」で調べられます。
https://www.giroj.or.jp/ratemaking/fire/touchi/

注意したいのは、水災等地の設定は、外水氾濫※1だけでなく、内水氾濫※2や土砂災害等の水災リスクも含めて評価しているため、洪水ハザードマップ等の一般のリスク情報とは必ずしも一致しないことです。「自宅周辺には河川がないから安心なはずだ」といった先入観にとらわれず、客観的なリスク判断の1つとして確認すべきでしょう。
また、水災等地は、基礎データの更新状況等を踏まえ適宜見直しが行われるため、将来に渡り同一の等地であることを約束してくれるものでもありません。「過去に水災がない地域だから安心」とは限らない点も知っておきましょう。

■改定の時期と見直しのタイミング
「参考純率」の改定を受けて損害保険各社が火災保険を改定するのは「2024年度中」とされています。既に2024年10月1日とアナウンスしている大手損保社もあることから、各社、同じタイミングで改定する可能性が高いと考えられます。
現在契約している火災保険が、改定実施後すぐに満期を迎えるといった場合は、前倒しで見直しを検討するのも有効です。満期直前に大きく値上がりする事実を知ったものの、他保障への切り替えを検討する時間がなく、泣く泣く高い保険料で契約を更新するといったことがないようにしましょう。




※1 大雨で川の水位が上がって、堤防の高さを越えたり、堤防が壊れて、水があふれたりする現象
※2 下水道等の排水施設の能力を超えた雨が降った時や、雨水の排水先の河川の水位が高くなった時等に、雨水が排水できなくなり浸水する現象

関口 輝(せきぐち あきら)

AFP ファイナンシャル・プランナー

生活経済研究所®長野 事務局長


 
公開日: 2024年01月18日 10:00