長生きリスクは「終身受取り」が鍵
今年も敬老の日を迎えると100歳を超える高齢者の数が過去最高を更新するでしょう。もはや「長生き」はリスクというよりも、だれにでも起こりえる当たり前のことと言えそうです。長生きが当たり前になれば、当然ながら先立つもの、言い換えれば老後資金をどうするのかという問題に直面します。人口の減少、人手不足を考慮すれば、定年退職や再雇用の年齢が多少は引き上げられるでしょうが、だれもが高齢に達するまで働けるわけではありません。個々人の能力も然る事ながら、健康年齢の平均は男性約72歳、女性約74歳。働きたくても体がついてこないというわけです。とすれば、働くことができなくなる完全リタイアまでに、多額の資産(ストック)を築いておくのが長生きに備える方法となりますが、一方で生涯受け取ることができる終身払いの商品や制度でキャッシュフローを得ておく(厚くする)方法を考えておかなければならないのです。
なぜなら、民間の金融商品で終身受取りができるものはほぼないからです。医療保険などには「終身払い」の商品がありますが、保険ですから平時(通常の生活)には役立ちません。約款に記載されている保険事故が起きた時、はじめて給付金は支払われるのです。通常、私たちは保険事故になるべく合わないように生活しているのですから、医療保険の給付金を充てにするのは論外になります。その他、定額型や投資型などの名称で「個人年金保険」が取り扱われていますが、度重なる予定利率の引き下げにより、これらの商品の年金受取方法は10年や20年などと受取期間が決まっている有期払いタイプばかり。予断ですが、過去に加入した終身年金タイプの個人年金保険は超お宝保険。解約は御法度です。唯一終身受取りが可能と言い切っても良い商品が、以前このコラムで紹介した「トンチン年金」だけです。2017年から対象者が拡充した個人型確定拠出年金保険(iDeCo)にも、残念ながら終身払いで積み立てたお金を受け取ることはできません。こうして見ていくと、私たちの老後は長くなる一方、長生きに備える金融商品や制度がほとんど備わっていないことがわかるはずです。自助努力を行うと考えても、キャッシュフローの確保には限界があるということです。
そこで終身受取りができる制度でして、公的年金を有効に活用しようというわけです。有効活用というよりは、多額の終身年金を確保する努力を行おうと言った方が正しいでしょう。「公的年金」は制度存続が可能かどうかを背景とした不安感は拭えないのは事実ですが、老齢基礎年金(国民年金)の半分は税金で賄われています。この税金部分に関しては受け取ることができるでしょう。その公的年金、満額を受け取るためには40年間(480月)の加入が必要になります。毎年送られてくる「ねんきん定期便」で加入月数などを確認すれば、60歳時点での加入月数が把握できるはずです。40年に足りないようであれば、任意加入を行い満額受け取るようにしたいところです。多額という意味では、「繰下げ受給」を考えるもよいはずです。年金の支給開始時期を1ヵ月遅らせれば、0.7%年金受給額がアップします。1年で8.4%、3年で25.5%、5年で42%も年金受給額がアップするのです。こんな高利回りの金融商品はありませんから、100歳を視野に入れるなら、繰下げ受給は是非活用したいところです。
また、自営業者などの第1号被保険者は、会社員や公務員と違い年金は1階建ての国民年金のみ。終身年金が薄い(少ない)と言わざるを得ないことから、国民年金基金を活用して2階建ての終身年金を作り、勤労者と同等の年金受給にするようにしましょう。長生きに備えるには、終身受取り厚くすることが鍵になるのです。
深野 康彦(ふかの やすひこ)
AFP ファイナンシャル・プランナー
有限会社ファイナンシャルリサーチ 代表