介護休業は「介護準備休業」と心得るべき理由
今や大きな社会問題のひとつである介護と仕事の両立。
現在、介護によって離職した介護離職者は年間約10万人、さらに、その予備軍は240万人にものぼると言われています。
4人に1人が、5年以内に介護と仕事の両立の問題に直面すると予想
株式会社インテージリサーチが、全国の35~59歳の被雇用者(会社員・公務員など雇用されて働いている人)を対象に実施した「介護離職に関するアンケート」(2017年3月)によると、「現在、家族の介護を担っている」のは5.8%、「近い将来(1~2年くらい)には担っている可能性がある」のは5.3%と、被雇用者の約1割が仕事と介護の両立に直面していることがわかりました。そして「将来的(3~5年くらい)には担っている可能性がある」を含めると、その割合は24.4%と、ほぼ4人に1人という結果に。
そして、総務省の平成24年「就業構造基本調査」によると、全雇用者数のうち介護をしている人の割合は女性5.5%、男性3.3%と、やはり女性の方が高くなっているものの、男性の割合も徐々に増加傾向にあります。
年齢別では、男女ともに「55~59歳」が最も多く、一定の年齢になれば、いくら親が元気であっても、「もうそろそろ自分たちも・・・」と早めに準備をしておいた方が良さそうです。
せっかくの両立支援の制度を利用していない人が多い
年を取れば、親が要介護状態になるのは仕方がないこと。問題は、介護と仕事を両立できるかです。
2015年、国は「介護離職ゼロ」を打ち出して、ハード面・ソフト面からさまざまな具体策を導入しています。
その一つが、2016年3月末に成立した改正「育児・介護休業法」です。2017年1月から実施されている、介護休業制度(以下、介護休業)の分割取得や介護休暇の半日単位の取得など、より利用しやすいように改正されたことは、ご存じの方も多いでしょう。
改正の背景としては、両立支援のための制度があるにも関わらず、実際の利用者が少ないという実態が問題視された点が挙げられます。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング「仕事と介護の両立支援に関する調査」(平成24年厚生労働省委託事業)によると、介護をしている就労者が利用したことのある勤務先の制度について、男女とも何も「利用していない」という人が最も多かったのです(男性55.6%、女性44.9%)。
そして利用した制度の中で最も高かったのが「有給休暇」(男性27.8%、女性で31.8%)で、介護のために設けられたはずの「介護休業制度」については、男性4.2%、女性6.5%、「介護休暇」については、男性4.2%、女性8.4%という、利用割合の低さが浮き彫りになりました。もちろん、利用しない理由が、「利用しにくい雰囲気が職場にある」「制度自体知らなかった」「利用すると収入が減少してしまう」「有給休暇で事足りた」など、さまざまではあるのですが、改正によって、利便性が向上した点は素直に評価したいと思います。
介護の事前準備が原因で離職するケースもある。
しかし、介護休業について、多くの方が誤解していることがあります。
それは、この制度が実際に介護を行うための休業なのではなく、介護の準備をするための介護「準備」休業であるという点です。
そもそも、介護休業は、要介護状態にある家族を介護するために、通算して93日間を上限として休業できる制度。原則として、1人の対象家族に1回しか取得できません。
生命保険文化センターの「平成27年度生命保険に関する実態調査」によると年介護期間の平均は59.1ヵ月ですから、これでは短すぎます。
つまり介護休業は、直接介護を行うのではなく、在宅で受ける介護サービスの手続きを行ったり、介護施設への入所を進めたりといった、間接介護の準備や介護環境を整えるためのものだということを理解しておくべきです。
というのも、介護離職の理由として、介護の事前準備など一時的な理由で仕事を辞めるケースが見受けられるためです。実際、長年勤務してきた会社を退職し、介護の体制が整った後に離職を後悔したといった方も少なくありません。
介護は子育てと異なり、いつ終わるか分からないもの。自分自身でやり過ぎは禁物です。利用できる制度やサービスは積極的に活用し、いかにプロに任せるかを検討することが重要です。
黒田 尚子(くろだ なおこ)
CFP®認定者
1級ファイナンシャルプランニング技能士消費生活専門相談員資格
消費生活専門相談員資格
CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター