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自動移換を放置してはイカン!?
■自動移換とは
確定拠出年金(DC)の資産は、原則60歳までは中途引き出しや解約ができませんが、その代わりに、転職・退職等が発生した時に自身のDC資産を他の企業型DCやiDeCoの口座等に移し換える(移換)ことができます。これを「ポータビリティ」と言います。
企業型DCを実施している企業を60歳未満で退職した者が、資格喪失日(退職日の翌日)の属する月の翌月から起算して6ヵ月以内(例:退職日が3月31日の場合、同年10月末日が期限)に資産移換の手続を完了しなかった場合、法令の定めにより、当該資格喪失者のDC資産は売却・現金化され、国民年金基金連合会(厳密には、同連合会から委託を受けた特定運営管理機関)の仮預り口座へ自動的に移換されます。これを俗に「自動移換」といい、メディアによっては「放置年金」「DC難民」などと称することもあります。なお、自動移換とは法令上の用語ではありません。法令上は、自動移換の対象となった者を「連合会移換者」と称しています。
自動移換者の数は2024年3月末時点で128.7万人と、企業型DCの加入者数(同時点で805万人)の約15%に相当します。自動移換に関する周知や注意喚起は行われているものの、その増加に一向に歯止めがかからないのが現状です。
■自動移換のデメリット
自身のDC資産が自動移換されてしまい、かつその状態を放置していると、下記のデメリットが生じます。
(1)移換時に手数料がかかる
自動移換が行われる際に、国民年金基金連合会への手数料(1,048円(税込、以下同じ))および特定運営管理機関への手数料(3,300円)がそれぞれ発生します。
(2)移換した後も管理手数料がかかる
自動移換後4ヶ月目からを経過すると、管理手数料が毎月52円発生します。
(3)掛金拠出・運用指図ができない
自動移換された状態のままでは、掛金拠出や運用指図ができないため、老後資金を準備することができません。
(4)60歳から受給開始できない場合がある
DCの老齢給付金は60歳から受給可能ですが、60歳時点で通算加入者等期間(加入者期間と運用指図者期間の合計)が10年に満たない場合は、受給開始可能年齢が最大65歳まで後倒しになります。自動移換されている期間は通算加入者等期間には算入されないため、受給開始可能年齢が60歳よりも遅くなる可能性があります。
(5)退職所得控除の金額が小さくなる
DCの老齢給付金を一時金で受け取る場合は、退職所得として退職所得控除などの措置が適用されます。自動移換されている期間は退職所得控除の算定に用いる勤続年数には算入されないため、退職所得控除の金額が実態よりも小さくなる可能性があります。
(6)自動移換の解消時にも手数料がかかる
自動移換の状態を解消する際にも、国民年金基金連合会特定運営管理機関への手数料(1,100円)が発生します。また、移換先によっては、手数料を別途徴収される場合があります。
■自動移換になってしまったら、どうすればいい!?
自分のDC資産がひとたび自動移換されてしまったら、もう取り戻すことはできないのでしょうか? 心配は無用です。所定の手続(転職先の企業型DCへの加入、iDeCo口座開設etc)を行えば、自動移換された資産を企業型DCまたはiDeCoの口座に取り戻すことができます。これらの手続きが完了すると、「移換完了のお知らせ」「移換手続完了通知書」「お取引報告書(受換)」等の書面が送付されてきます。自動移換の解消に必要な手続きおよびその他の問合せについては、特定運営管理機関のWebサイトまたはコールセンターへ照会してください。
<特定運営管理機関Webサイト>
https://www.jidoikan.jis-t.co.jp
<自動移換者専用コールセンター>
03-5958-3736 (平日9:00~17:30)
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DCは加入者が自ら資産運用を行い、その結果が給付額に反映される「自己責任」の制度であることはすでに知られています。しかし、自己責任が求められるのは資産運用だけではありません。今回紹介した転職・退職に伴う資産移換の手続のほか、裁定請求時の受取方法に係る手続など、DCでは随所で自己責任が求められます。そして、企業型DCの実施企業には、従業員が資産運用や各種手続を自ら適切に判断・実施できるようサポートする責務が課せられていることを忘れてはいけません。
いずれにせよ、ライフプランにかかわる実務担当者としては、顧客あるいは従業員に自動移換のデメリットを被らせないためにも、「自動移換を放置してはイカン」あるいは「自動移換を放置することは遺憾である」との決意を新たにしたいところですし、そうでなければ「如何ともしがたい」ところです。
谷内 陽一(たにうち よういち)
名古屋経済大学 経済学部 教授
社会保険労務士
証券アナリスト(CMA)